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『何から何まで異様な男』〜夫の親友が夫を溺愛してきて困ります。こっちは新婚なんですなんとかしてくださいっ!!〜  作者: 江古左だり


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15/16

(15/16)オレの兄貴になってくれ

 高橋是也は22歳で松桜高等学校の新任教諭になった。担当は現代国語である。


 ある日職員室に戻ると男の子が1人。椅子に座って空を見ていた。


「君……?」


 タカハシは戸惑った。ここは女子高なのである。しかも職員室。普通に考えれば不法侵入だ。


 男の子がこちらを向いた。


 黒くて細いフレームの眼鏡をかけた、眼光の鋭い子だった。髪は真っ黒でサラサラ。


 黙っている。


「あ。君ね。その。職員室になんの用事ですか?」とタカハシは聞いてみた。


「親を待ってるんです」


「あ。どなたか先生のお子さんなの?」


「久保真理亜です」


 あっ!! 本部の!! 久保課長の息子さんか!! 確かアメリカに留学しているとかいう!!


「あなた誰?」

「あ……。こんにちは……。僕は高橋です。今年この学校に赴任したので、久保くんは顔見たことないかもね」


「サトル」

「え?」

「『久保くん』やめて。サトルでいい」

「あ。サトルくんね……。はい……」


「タカハシセンセーは何? じゃあちょっと前まで大学生だったってこと?」

「ああ。うん。数ヶ月前まで学生でした」


 ここで初めて『ニヤッと』笑ったのだという。


「へーっ。オレはね。次の9月から大学生。書類を揃えるんで日本に来てんの」


 え!? この子が!? どうみても中学生くらいだけど……。


 なんと中学高校を飛び級(スキップ)して次の9月に大学生になるのだという。天才なのこの子。


 あぜんとしていると「タカハシセンセーさぁ。学校案内してよ。マリア待ってんの飽きちゃった」と言われて校内を案内することになった。


 歩きながら言われる。

「タカハシセンセーさぁ。なんでここにしたの? オワコンだけど。去年の入試倍率知ってる?」

「0.75……」


「そうだよ。定員に達してないんだからね。慌ててクラス数減らしてさぁ。こんな『沈みかかった船』みたいなとこ早く辞めて次探しなよ」

「……いや……伝統あるしね……。名門女子校だよ」

「その『伝統』のせいで潰れかかってんでしょ?」

「え? どういうこと?」


「セーフクだよ。制服!! 今どきあんっなダッサイ制服着たいJKいないって。『女子高生』はブランドなんだからさぁ。出来るだけ自分を高く売りたいんだよ。それがあんなクソダセエ制服3年間とか。オレなら耐えられないね」


 まあ。確かに。100年前の設立時から制服が変わっていないのである。

 当時は最先端だったらしいが、今となっては『おばあちゃんのファッション』だった。


「サトルくん」

「呼び捨てにしてくれよ」

「サトル」

「何?」

「じゃあ……その……君はどんな制服ならいいと思う?」


 この時サトルは立ち止まった。『おや?』って顔になった。『なんだこの大人。話聞いてくれるのか?』


「そんなんさぁ。女子高生に聞きなよ」



 校内を歩きながらサトルは次々女の子を指さしたのだという。

「あの子と、あの子と、あの子」


 5人。


 タカハシは全員に『放課後ちょっと残ってくれないか?』と頼んだ。よく見ると『やる気のない生徒トップ5』だった。成績も悪い。

『どんなヘアピンつけてくか』みたいなことしか考えてない女子たちだ。


 それで放課後視聴覚室に来てもらった。サトルは真ん中辺りの椅子にどっかり座って彼女らに尋ねた。


「ここの制服さぁ。なんか不満ない?」


 タカハシは驚いた。やる気のない、目の死んでる女の子たちが一斉にしゃべりだしたからだ。


 あるに決まってんでしょ!! 何この色! スカーフ! スカートの長さ! 靴下は白のワンポイントとかバカなの!? 襟元がうっとおしい。 前髪はオンザ眉毛とか何時代なの!?


…………こんなイキイキしたとこ見たことないよ。


 それで、サトルはあの『ニヤニヤした笑い』を浮かべて女子高生たちの意見を全てすくいあげていった。



 翌日は『マイ制服』を持ってきてもらった。

 なんとこの子達。放課後は自分で用意したオシャレな制服に着替えて渋谷を歩き回るのだという。


 並べると一目瞭然だった。


 松桜高等学校の制服、ダサい。


「タカハシセンセーさぁ」

「うん」

「オレ次日本くんの夏休みなのよ。夏休みいっぱいオレに付き合ってよ」



 夏休みになるとサトルの家に呼びつけられた。


『総丸デパート』の外商部が待機していた。名刺をもらう。『青池桜』今年入社の新人だそうだ。


「デザイン。『ソーマル』さんと考えることになったから」

「いや……あの……ご両親の許可とかは? その……君が勝手に学校の制服を変えるなんて出来ないんだよ?」

「このガッコー。オレの爺さんと婆さんのモノだし。そもそもオレが将来の会長だから」


 開いた口が塞がらない。


 毎日学校に通った。例の『落ちこぼれ5人組』と総丸デパートとデザイナーで『ああでもないこうでもない』と言い合った。


 そのうち面倒になったのだろう。サトルに「タカハシッ。もうオレの家に住めよっ」と言われて夏中『鯉御殿』に住むことになった。


 サトルの両親がさぞや怒るかと思ったら笑顔ではちきれそうになってる。


「サトルにもやっと日本人の友達ができたわ!!」


 何!?


 どうやったのかわからないが渋谷で女子高生を5人ナンパしてきた。モデルクラスである。


『モデルクラス』はさすがであった。1発で新しいデザインのダメなところを指摘してきた。サトルがお小遣いを渡す。


 何!? 何!?


 サトルとはアメリカに戻ってからもずっとパソコンでやりとりをした。サトルの手足になってタカハシは動いた。


 そして4ヶ月かけて新しい制服のデザインが決まり発表された。


 デザイン発表の日。『落ちこぼれ5人組』が肩を抱き合って泣いているのを見た。彼女たちは自信がついたのか成績が急上昇していった。


 制服発表後の入試倍率、2.5倍。


『オワコン』の『名門女子校』が奇跡の復活を遂げたのである。



 これが会長を激怒させた。会長といっても既にお飾りである。

 毎日会長室で新聞読んでいるのが関の山のお爺さんだ。


『伝統を破壊し』『チャラチャラした制服に変えた犯人は誰だ』という話になった。


 母親の真理亜が会長室に呼びつけられ2時間以上説教されたらしい。


「くだらない孫作りおって」


 サトルにとって1番(こた)えたのは自分が叱られたわけではなく母親が叱られたということだった。


 まだ10代のコドモは徹底的に蚊帳の外にされた。


「あんなの学校に関わらさせるな」と理事長直々のお達しがあった。

 大学卒業したら即本部入社。最初から経営に携わる予定だったのに全てが白紙になった。



「それで……サトルのお姉さん。長生子さんに白羽の矢がたったんだけどね……」


「はい」


「ダメだったんだよ……」


「何がですか?」


「実は長生子さん。『感音性難聴』なんだよ」


 久保長生子くぼちょうこ。このとき21歳。女子大生であった。

『感音性難聴』とは、耳から入った音の情報が正しく脳に伝わらない症状だ。


 耳が聞こえないわけではない。


 音がぼやけて聞こえたり、本人は聞いているつもりでも正しく聞こえていなかったりする。


 長生子の一般就労は難しかった。


 今は在宅勤務でほとんどの仕事を文字情報で済ませている。電話は使わない。本部の一員として活躍している。


「まあそれで。その……優秀な婿を取ればみたいな話になってね……」


 長生子は抵抗した。『大里会』存続のためになぜ私が好きでもない男と結婚しなければいけないのか。絶対に嫌だ。


「それでサトルが……」


 サトルは。本当は。日本になんて帰ってきたくなかった。本部入社が取りやめになったことは返って好都合だった。

 サトルはアメリカの大学を出て、アメリカで好きに生きたかった。でもお姉さんを苦境に追い込めなかった。


「サトルはね……。亡くなったお兄さん。空羽くううくんにひとかたならぬ思いがあるんだよ」

「そうなんですか」


「だって。空羽くんが生きてたら、彼が会長コースにのったと思わない? サトルより7歳も上なんだから」


「あっ」


 サトルは。無事会長に見放されて。アメリカで自由にやりたいことだけやって生きていけたのに。


「お兄さんが亡くなったということはね。サトルの未来も根こそぎ詰まれたということだったんだよ」


……………………。



 サトルはアメリカの大学を中退し、日本の大学に入り直した。『格付け』からいうとかなり下の大学だった。


 授業内容も比べ物にならない。


 サトルは毎日学校に『寝にいった』。テストは友達のノートを総動員。夜はホストである。


 要は『荒れに荒れていた』


 それでも超優秀な成績で大学を卒業。『松桜高等学校』の教員試験を自力で通った。


 それでタカハシに電話をかけた。

「タカハシ! オレさあ。ガッコーで『大里会』とはカンケーなく生きたいんだよ」


「うん」


「だからオレのことは知らないフリしててくれよ」


「……うん。わかった」


「それでさぁ!」


「うん」


「オレの『兄貴』になってくれよ!!」


「えっ……」


 オレの本当のアニキはさぁ。死んじゃったんだよ。母親のお腹のなかでさぁ。予定日の10日前までは元気そのものだったのにさあ。

 心臓が止まっちゃったんだ。原因はわからないんだって。


 空羽の代わりにタカハシがオレのアニキになってくれよ。


 日本でオレの話をちゃんと聞いてくれた大人なんて3人しかいないんだよ。


 乳母ナニーの雅代と。精神科医の木島と。高橋是也しかいなかったんだ。


 だからさぁ。もう腹(くく)って一生オレの人生に付き合ってくれよ。


 頼むよタカハシ。



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― 新着の感想 ―
[一言] サトル、大変だったんだね。 ちゃんと話を聞いてくれたのが3人だけって、しかも、そのうち1人が精神科医。それ仕事としてじゃん。 「のび太の家」に憧れちゃうわけだね。
[一言] オレの話をちゃんと聞いてくれた大人 重要ですね・・・<(_ _)>(*^-^*) 次が最終回だなんて・・・残念過ぎます・・・ 続きがあるならば、楽しみにしています。 プレッシャーはかけた…
[一言] 『落ちこぼれ5人組』が肩を抱き合って泣いているのを見た。彼女たちは自信がついたのか成績が急上昇していった。 素敵なエピソードですね!!<(_ _)>(*^-^*)
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