縁の糸
桔梗の花がもう咲いた。
青紫の星型と、白い星型。
縁側を通るたび、変わらぬ想いの花色を、私も聖もちらりちらりと見遣っている。
桜降る晩以来、私たちの間には何もない。
どちらもがタイミングを見計らっているようでもあり、相手に遠慮しているようでもある。
初夏の日の下、しゃくり、しゃくりと桔梗の茎に鋏を入れながら、私はそのことについては深く考えまいとした。
今日は奇遇にも、真葛と俊介が同時に来ている。
真葛には隼太の要請や、今後のこちらの出方などを伝えるべきかと思い、呼んだのだ。
本当は何も関わらせず済ませたかったが、それで対応が出遅れては話にならない。
「こと様がお決めになられたことに否やはございません。但し、音ノ瀬隼太の行動の抑止力を十分に考えておく必要があるかと」
三人で漆黒の卓を囲み、インクブルーの切子硝子の茶器で、冷えた緑茶を飲みつつそういう話をした。
「聖さんの考えで、監視は既に派遣しています」
「それだけで足りるでしょうか?」
「と思い、聖さん自身が今日、隠れ山に赴いているのです。私も何度かあちらに足を運ぶ必要があると考えています。隼太さんの思想に同調する人たちと話もしてみたい。戦火を望む思惑が紛れ込んでいれば、放り出します」
真葛は私の顔を見つめてから、床の間に活けた桔梗に視線を移した。焼き締めた白備前の花器に、桔梗の青紫色が楚々と映えて美しい。
「――――五年です。五年の歳月を経てやっと、聖は貴方の傍にいることを許されたのです。もう万一の事態など、あって欲しくはありません……」
それは、私と聖に対する姉心だろう。私は真葛の肩に右手を置いて、安心させるようにそっと撫でた。
真葛が帰って後も、俊介は居座っていた。
彼もまた、桔梗の花を見ている。
まるで今日一日の主役は桔梗のようだ。
やがて思い切ったように俊介が言った。
「俺は、諦めません」
「え?」
「ことさんと聖さんの間に何があっても、お二人が正式にご結婚されるまでは。見っともなくても、格好悪くても、ストーカーでも、この想いを諦めたくないんです。俺は今日、これを言う為に来たんです」
その時ばかりは桔梗に置かれていた眼差しが強く私に向けられた。
同様のことを秀一郎もまた聖に明言していたとは私たちは知らない。
ちなみに、千秋は俊介のことを憎からず思っているらしい。
先日、偶然に二人がこの家に居合わせた時、明らかにそういう挙動をしていた。
しかしそれを今言っても、何にもなるまい。
こういうストレートな男には直截に告げるのが一番なのだ。
「私は聖さんが好きです。その想いは変わりません」
「知ってます! けど、一パーセントでも変わる可能性があるのなら」
「ありません。〇パーセントです」
「――――……それでも!それでも、報われない想いをどうしようと俺の自由です。報われないコトノハであっても、俺のコトノハです。譲れません」
食い下がる。根性があるな。
私は俊介をまた見直した。
これは優良物件だから是非とも千秋にやりたいところだが、はてさて。
赤い糸は人の想いのままならず、絡まり合い、もつれ合う。




