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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第三章
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女子力

 佐保子は夢で長老に呼ばれた。紫雲棚引く中、端座する。相変わらず、長老たちは煙漂うようで、掴みどころがない。

「小僧共がしくじりおった」

「……椎名さんたちが? 皆ですか? 信じられません」

「相手の計略にうかうかと乗ったのよ。今は囚われて籠の鳥じゃ。伊勢よ。小僧共を救出せよ」

「あちらには菅谷も九倉もおられましょう。私と祖母だけでは、些か、手に余るかと」

「後押しはする。励めよ。三席を欲するならな」


 障子の向こうから朝日が射し込んでくる。もうだいぶ秋の空気だ。佐保子は身を起こすと、軽い溜息を吐いた。三席。三席が何程のものか。祖母の雅が拘っているから、佐保子も長老側に就いてはいるが、正直なところ心情的には音ノ瀬寄りだ。ことには好感が持てる。椎名は強いが力に恃むところが大きい。油断したのだろう。そんな彼を〝回収〟しに馳せ参じる気概が、佐保子には湧かなかった。それにどうせ、椎名のことだ。大人しく籠の鳥に収まってはいまい。何か考えがあるかもしれない。いずれにしろ、動くのはもうしばらく時間を置いてからだ、と佐保子は着付けを終えて考える。緑茶を淹れて、一息吐くと、頭の中で呪術の総ざらえを始めた。



 翌朝、麒麟は遅くまでよく寝ていた。彼の眠りを妨げないよう、私は皆に静かに振舞うことを望んだ。とりわけ、大阪組。彼が寝ている間、昴たちとコーヒーを飲みながら話していた。麒麟が起きて来たのは昼近くである。スウェットの上下を着て大欠伸をしながら客間に来る。

「ああ~~~~。昨日は見っともないとこ見せた。忘れてみんな」

「気にするな、麒麟。お前が見っともないのは割とデフォだ。因みに昨日、「お兄ちゃん、助けて!」と抱きついて来たのは終生、忘れんぞ」

「うっそだ! 俺がそんなことするかよ。水草! 水草!?」

 式神に事の真偽を確かめようとしているのだろう。

「水草なら風呂洗ってんぞ」

「くそ! 人の式神勝手に使ってんじゃねーよ!」

 まあ、元気そうで何よりだ。

「麒麟さん。ガトーショコラを焼いたんです。お召し上がりになりませんか?」

「ガトーショコラ? 奈苗ちゃんが焼いたの? うわお、女子力高っ」

 コーヒーに甘く苦いチョコケーキを皆で食べながら、話はまだ昨日に戻る。

「椎名さんたちは、出て来られないんですか?」

「夢の牢獄に閉じ込めたからな。外部からの手引きでもない限り無理だな」

「昴さんって菅谷家当主だったんですね」

「どう言う意味だ」

「いえいえ、実力がおありなのだなあと」

「あ~。でも、佐保子ちゃんとか雅さんあたりが出てきたらちょいやば?」

 三席の一。伊勢の名高い呪術者。

「こちらには九倉さん、菅谷さん、そして我ら音ノ瀬がいます。ゆったり構えて参りましょう。昴さん、夢の牢獄を私が俯瞰することは出来ますか?」

「ああ、可能だ」

「緊縛のコトノハを二重三重に処方しておきましょう」

 それにしてもガトーショコラ美味しいな。こんな妹を持って由宇は幸せであると思って由宇のほうに視線を遣ると、妹を見守る、慈愛の眼差しにぶつかって慌てて目を逸らす。

 空気が少しずつ、少しずつ、夏から遠くなっている。澄んだ青空はどこか物悲しく、私に来たる秋を知らしめるのだった。



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