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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第三章
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胃の腑に入るもの

「奈苗、大丈夫か」

 締め切られた部屋の向こうから、由宇の声が聴こえる。奈苗は、人形をそっと置いた。奈苗の人形の術は、諸条件が重ならないと発動されない。また、術の行使中は一人になる必要がある為、由宇も立ち入ることが出来なかった。二人は、菅谷兄弟に異変が起きていると察知するや、すぐに動いた。由宇は奈苗の守りに、奈苗は人形を使った術の行使に。

「入って良いわ、兄さん」

 妹の許可を受けて室内に足を踏み入れた由宇は、案じる顔つきだった。人形の呪術は効果が高い。ゆえに、撥ね返された時は命に関わる。奈苗は由宇を安心させるように微笑んだ。


 昴は昴で、現世の帰着点に音ノ瀬本家を定め、この家で麒麟が使う部屋に直行した。麒麟もここにいる筈。

「麒麟!」

 床に倒れ伏した麒麟は、うわ言で小さく何か言っている。耳を近づけると、「勇魚、ごめん、勇魚」と呟いている。頬には涙。昴はそれを乱暴に拭って、麒麟を静かに揺さぶった。

「……あ……? 兄貴?」

 昴、ではなく兄貴と呼ぶ。麒麟の心の弱り方に、昴は唇を噛み締めた。生成りっぽい白髪の頭を抱いてやる。

「あいつのことはな、麒麟。誰のせいでもないんだ。もう終わったことなんだよ」

 麒麟は目を見開いたまま、透明な雫をポロポロ零した。

 私は聖に起こされた。遠慮がちな顔で、異変があったようだと告げられ、昴たちの部屋に急いだ。奈苗の部屋には、夜は近づかないように言い含められていたからだ。

「何がありました」

 まだ他の家人は寝ている。彼らを起こさないように、足音を立てず静かな声で、なぜか麒麟の部屋にいる昴に問いかけた。昴は麒麟の寝顔を見たままだ。

「小栗と俺が仕合った。決着がついたところで椎名が来た。麒麟に、勇魚の霊魂を使ったと――――――――っ!」

 私は事態を呑み込んだ。

「何てことを……」

「音ノ瀬こと。悪いが、麒麟が安眠出来るような、コトノハを処方してくれないか?」

「はい。安らぎ眠れ……」

 悲哀に満ちていた麒麟の顔がやや楽そうになった。昴は抱いていた麒麟の身体を、そのまま布団に横たえ、布団を掛けてやった。

「客間に行きましょう」


 明かりを小さくして、緑茶を淹れ、聖と昴、それから合流した奈苗と由宇に配った。虫がまだ鳴いている。集まる人たちは皆、大人なのに、黒く伸びる影はどこか心許なく見えた。

「では、奈苗さんが人形を使って?」

「はい」

「大したもんだ。お蔭で椎名の奴らを一網打尽に出来た」

「まだ油断してはいけません。次善の策を講じていないとも限りませんから。聖さん、ことさんをしっかり守ってね。敵が掌中にあると言うことは、こちらの喉笛も晒していると言うことだから」

「しっかりしてる」

 笑みを含んだ声で昴が言う。聖ははっきり頷いた。緑茶を淹れて良かった。それぞれの心胆が冷えていたところに、温もりが流れ込む。それだけで心の持ち用は変わって来る。ふと思い立った私は、水屋にあった落雁を持って来て、若緑色のそれを細かく分けて皆に配った。優しい甘さが、緑茶の温もりを助けてくれることを願った。



昴「おい、九藤。てめえ、麒麟を泣かせやがって」

九藤「ほ(゜o゜)?」

昴「ほ?じゃねえ!あんなんでも弟だぞ、何しやがる!」

九藤「椎名くんに言いたまえ。ところで君はそんなに弟想いだったかね」

昴「桜も死んで、まともな血縁があいつぐらいしか残ってねえんだよ。人情だろうが!……まともな…………、……あいつ、まともか……?」(自問自答タイム突入)

九藤「……(゜゜)」


由宇「奈苗」

奈苗「なあに、兄さん?」

由宇「もし、僕と聖さんが戦うことになったら、人形の術を使う?」

奈苗「使うかも」

由宇「どっちを応援するの」

奈苗「そうね。とりあえず、人形は二体、用意するわ」

由宇・聖((…………二体?))





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