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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第三章
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陽動と人形

 深夜、人が寝静まった夜更け、麒麟と昴、由宇と奈苗は各自の夢のパトロールをしていた。麒麟たちは磨理の件を聴いて複雑そうな顔をしたが、取り立てて何も言わなかった。こと、聖、かささぎ、芳江、撫子、劉鳴、大海、隼太、摩耶、景、楓、それぞれの夢を打ち合わせて見て回る。余り気持ちの良いことではないが、防衛上、必要なことだった。

 巡回している内、昴は同じところをぐるぐる回っているような気がした。怪訝に思い、麒麟と連絡を取ろうとするが、夢の中だからこそ通じる筈の思念が通じない。来た道を引き返そうとした昴の左から、凄まじい勢いの蹴りが飛んで来た。避けなければ骨折、もしくはそれ以上は必至だ。昴は避けた。ザザザ、と靴が地面と摩擦を起こす音を立てる。内心、舌打ちする。竹筒が離れた位置に転がった。

 オードトワレの匂い。柄シャツに黒いスラックス。

「小栗か」

「正解だ。よく避けたな」

「まだガキの頃、麒麟とよく遊んでたからな」

 児戯だと煽られ、小栗が色めき立つ。瞬発力で一気に昴の目前に迫り、右頬をしたたかに殴った。昴は吹っ飛んだが、すぐに体勢を立て直す。ベッと血を吐いた。

「呪力を身体に籠めるタイプか。気が合いそうだ」

 呪力を、拳や脚に籠めて直接攻撃する。余り陰陽師らしからぬ戦法だが、有効ではある。

「てめえと気が合っても嬉しくも何ともねえんだよ!」

 小栗が回し蹴りを放ち、昴はそれを防御する。

「何……」

「呪力を籠めるのが自分だけだとでも思ってたか?」

 昴は冷たい眼差しで、掌底を小栗の顔面に叩き込んだ。

「悪いが俺もこっちのほうが得意でね」

「……」

 呪力を籠めた体術の格闘戦となる。小栗は顔面、血塗れになりながらも哄笑した。

「はっはああああーーーーーー!! やっぱこうじゃなくちゃ面白くねえや!」

「うわ、戦闘狂かよ……」

 拳、肘、掌底、膝、足、全てを尽くし戦いは続く。その内、ごく僅かにだが、優劣が付き始めた。昴の息が荒くなる。小栗は勢いづく。術と体術、オールマイティ―に覚えのある昴に対して、小栗は全てを呪力を籠めた体術に注いでいる。その土俵だけで戦おうとすれば、差が出てくるのは明らかだった。

「神の御息(みいき)は我が息、我が息は神の御息なり。御息を以て吹けば脅威は()らじ。阿那(あな)清々(すがすが)し、阿那清々し」

 ゆえに昴は呪力を籠めた体術と、呪術のコンビネーションを選んだ。小栗の動きが鈍くなる。

「お前さあ。莫迦の一つ憶えは直したが良いよ」

 脱力した小栗に屈み込んで諭す昴の隙を、小栗は狙った。

 しかし。 

「紫具羅」

 顕現した銀色の狼の式神がその肩に食らいつく。


 パンパンパン、と場違いに拍手の音が鳴り響いた。昴がはっと顔を巡らす。

 浅黒い肌。紫のメッシュ。

「椎名」

「いやあ、流石だよ。君、強いねえ。でも、まだ俺とも戦う余力ある? ねえ、菅谷家当主・菅谷昴君」

「――――麒麟はどうした」

「うん?」

「こっちの男は陽動だな。麒麟から俺を引き剥がす。麒麟はどこへやった」

 言い募る度に声が段々と低くなる。にっこり、椎名が笑う。

「勇魚君って可愛いね」

「――――!」

「紗雪が圧倒的に苦戦を強いられてたのに、勇魚君の霊魂をちょっと〝使って〟みたらあっさり負けたよ。天才陰陽師のメンタルが、あんな豆腐じゃいけないな~」

 気を失った麒麟を抱え上げた紗雪が姿を現す。

「麒麟……!」

 夢の中、椎名たちが遠ざかる。昴は麒麟を見失う。その筈だった。


『椎名、小栗、紗雪。動くこと能わず。潜む耀も同じく』

 奈苗の声が朗々と響いた。更に声は続く。

『汝ら、抗うこと能わず。速やかに眠りに就くべし』

 人形を用いた呪術だ、と昴には見当がついた。しかし、これ程、強力なのは見たことがない。奈苗の人形遣いの腕は一流だと、聴いてはいたが……。

 椎名たちが何か悪態を吐きながら眠りに落ちる。昴は麒麟を取り戻し、安堵の息を吐いた。この夢の空間を小さな牢獄と化して、彼らを幽閉しよう。



『美食牢』もよろしければどうぞ。

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