表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第三章
796/817

独りだと寂しい

 大海の傍、動かずにいてから、時が過ぎた。硝子戸の向こうが赤く染まっている。

「こと様。そろそろ、ご入浴を。僕が代わりますから」

 聖がそう言ってくれて、やっと腰を上げる。身体の関節のあちこちが痛い。

「片時も気を抜かないで。磨理さんの後を追わないよう、見ていてください」

「承知しております」

 私は後ろ髪を引かれる思いで大海の部屋を後にすると、洗面所に向かった。洗面所のドアを内側から閉め、着物を脱いで浴室に入ると、不意にがくん、と力が抜けた。

 まっとうな在り様だったとは思えない。しかし、長年、磨理の喪失に絶望し、狂気に陥っていた大海が、やっと見つけた灯火だった。それは急拵えの、脆いものだったかもしれないけれど、間違いなく大海は幸せそうだった。笑っていた。掛かり湯をする。熱い刺激が心地好い。髪を洗い、足の指先から浴槽の湯に浸ける。湯に入り、改めて自分がどれだけ張り詰めていたか判る。私は、大海を通して傷ついていたのだ。聖を嘗て亡くした絶望を、ありありと思い起して――――――――。

「ことさん?」

 浴室の外から声が掛かりはっとする。楓だ。

「ことさん、私も入って良い?」

 私は泣き笑いのような顔になっていたかもしれない。

「ええ、もちろんです」

 目元を拭い、答える。少しして、若木のような少女が入って来た。楓が目を右に左に動かす。

「ことさん、独りだと寂しいかと思って」

 私は浴槽から上がり、楓が掛かり湯をした後、洗髪をする。細く柔らかい髪の毛。こんなものにさえ命が宿っていると感じる。私は、しばらく無言で、指の腹で楓の頭皮をよく洗った。こうすると、この子は大変、気持ちよいと言うのだ。

「磨理さんには、もう会えないの?」

「会えません。もう二度と」

 言い方がきつかったかと思ったが、楓はそっか、と呟いただけだった。

「大海さんが、悲しいね……」


 居間の上座で、茜翁が閉じていた目を開けた。

「音ノ瀬磨理の魂、逝ったな」

 畳に胡坐を掻いていた椎名が目を瞠る。

「えー、マジ? 誰がやったの?」

「音ノ瀬隼太」

「あーあー。そう。そういうことね」

 茜翁が左目で椎名を見遣る。

「得心が行くようだな」

 椎名が肩を竦めた。

「ファザコンでマザコンだからさ。こんなこともあるかなって」

「それより茜翁。次の手はどうすんの。敦盛、取り戻さなきゃでしょ」

 耀の言葉に茜翁は顎を撫でる。

「敦盛は良いとして……菅谷兄弟の乱行は目に余る。少し、痛い思いをしてもらうかな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 隼太なら大海が後を追っても仕方ないと思ってそう……。 そして老害が新たな魔手を……! しかし乱行ってどの口が……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ