婚活アプリ
劉鳴殿に、婚活アプリの話をしてみた。我が意を得たり、と言う顔をした。
「……年齢詐称はいけませんよ師匠」
「ええ~。でも、五十過ぎって需要ありますかあ?」
「同世代からはあるんじゃないですか」
「若いお嬢さんが良いんです」
うわあ。劉鳴殿の言葉を聴いた、その場にいた一同が引いている。
「難しいでしょうね。でも、師匠は見てくれが良いから」
「イケメンなんですよね」
「あ、写真は重要みたいですよ。90%以上が写真重視、写真が良くなければ自己紹介すら読んでもらえないとか」
「勝ちましたね」
劉鳴殿のドヤ顔。そんなに自信あるんだ……。
「只、仕事や年収が」
「お金ならありますが」
「天響奥の韻流前宗主って、どこの厨二かと思われますよ」
「でも本当だもん」
だもんとか言うな。
「必勝マッチングアプリの自己紹介、とかありますで」
面白がっている芳江が検索を掛ける。
「再婚、同世代ならいけるのでは」
「初婚、二十代が良い」
「殴って良いですか」
「待って待って、殴らないで。師匠よ?」
師匠だからである。とりあえず諸登録を済ませた劉鳴殿は、満足そうな顔をしている。しかし、婚活アプリはシビアである。二十代のお嬢さんが、五十代の劉鳴殿を検索枠に入れる可能性はほぼほぼない。そして劉鳴殿は実は富豪だが、自分で稼いでいる額は私にも謎である。聖が婚活しようとするようなものだ。ましてや再婚。枠は更に狭くなるだろう。このあたりが不思議である。劉鳴殿は亡き奥方を愛していた。一途に深く。それでも喪って、大海のように気が狂うでもなく正気なまま、再婚を考えている。前向きどころか前のめりに。本人の心境が測り兼ねるところだ。私は、もし聖を亡くしたら、後はもう独り身を通す。聖もまたそうだろう。人それぞれの愛し方があるのだなと思う。
「……〝僕だけを愛してくれる紫の君を探しています〟て。劉鳴さん、こらあかんわ」
それを自己紹介欄に書いたのか。ドン引きだ。芳江も流石に呆れ顔である。本当にやる気があるのかと問いたい。
「えーと、他には何々? 〝いざとなれば貴方を僕の日本刀で守ります〟」
「通報されますよ」
突っ込みどころ満載の劉鳴殿の自己紹介だ。由宇と奈苗は、当初こそ真剣な表情だったものの、今では白けていることがよく解る。夕食後、空気が緩み切った客間で、劉鳴殿のお嫁さん探しに唯一真面目なのが楓である。良い子過ぎるだろう。
「自己紹介の結び。〝愛があれば、年の差なんて♥〟」
「…………」
パンをくわえたツインテールの少女が「遅刻遅刻~」とか言いながら走って、曲がり角でイケメンとぶつかる確率のほうが高いような気がする。ごくごく普通に、まっとうに婚活すれば良いのに。高望みも良いところだ。
「そこらでナンパしたがええちゃいますのん」
芳江が尤もなことを言うが。それは餌食になる女性に気の毒だ。容姿は良いし剣の腕は立つし、喰うにも困らないから、不思議ちゃん要素を除けば引く手あまただろうと思えるが、そう簡単にはいかないのが世の中だ。
「耀と言う女性が椎名の仲間にいる」
大海が、口を開いたと思えば爆弾を投下する。こいつ、狂気か正気か。
「美人ですか年齢はどのくらい」
がっつき過ぎだ、劉鳴殿。
「磨理程ではないけれど、それなりに美人。年は二十代後半かな」
「イエス! 行ける! ことさん、彼女の相手は僕に任せてくださいねっ」
「師匠、何の相手をする積もりですか」
婚活条件で仕合の相手を決めないで欲しい。大海も要らん情報を開示してくれる。
「重音さんはどうかなあ?」
「楓さん!」
楓に口止めしようとするが、時既に遅し。劉鳴殿の耳が心なし大きくなったような。
「美人だし、二十代だし、優しい人だし」
「楓ちゃん。その、かさねさん? についてもっと詳しく」
「うんと、ルネ・ラリックが好きだよ」
「芸術的! 来たこれ。いやあ、あかるさんとかさねさん、二人もお嫁さん候補が出来てしまいましたか。これなら婚活アプリは必要なかったですね」
本気で言ってるのか。今頃、重音嬢と耀がそれぞれくしゃみしているかもしれない。




