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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第三章
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婚活アプリ

 劉鳴殿に、婚活アプリの話をしてみた。我が意を得たり、と言う顔をした。

「……年齢詐称はいけませんよ師匠」

「ええ~。でも、五十過ぎって需要ありますかあ?」

「同世代からはあるんじゃないですか」

「若いお嬢さんが良いんです」

 うわあ。劉鳴殿の言葉を聴いた、その場にいた一同が引いている。

「難しいでしょうね。でも、師匠は見てくれが良いから」

「イケメンなんですよね」

「あ、写真は重要みたいですよ。90%以上が写真重視、写真が良くなければ自己紹介すら読んでもらえないとか」

「勝ちましたね」

 劉鳴殿のドヤ顔。そんなに自信あるんだ……。

「只、仕事や年収が」

「お金ならありますが」

「天響奥の韻流前宗主って、どこの厨二かと思われますよ」

「でも本当だもん」

 だもんとか言うな。

「必勝マッチングアプリの自己紹介、とかありますで」

 面白がっている芳江が検索を掛ける。

「再婚、同世代ならいけるのでは」

「初婚、二十代が良い」

「殴って良いですか」

「待って待って、殴らないで。師匠よ?」

 師匠だからである。とりあえず諸登録を済ませた劉鳴殿は、満足そうな顔をしている。しかし、婚活アプリはシビアである。二十代のお嬢さんが、五十代の劉鳴殿を検索枠に入れる可能性はほぼほぼない。そして劉鳴殿は実は富豪だが、自分で稼いでいる額は私にも謎である。聖が婚活しようとするようなものだ。ましてや再婚。枠は更に狭くなるだろう。このあたりが不思議である。劉鳴殿は亡き奥方を愛していた。一途に深く。それでも喪って、大海のように気が狂うでもなく正気なまま、再婚を考えている。前向きどころか前のめりに。本人の心境が測り兼ねるところだ。私は、もし聖を亡くしたら、後はもう独り身を通す。聖もまたそうだろう。人それぞれの愛し方があるのだなと思う。

「……〝僕だけを愛してくれる紫の君を探しています〟て。劉鳴さん、こらあかんわ」

 それを自己紹介欄に書いたのか。ドン引きだ。芳江も流石に呆れ顔である。本当にやる気があるのかと問いたい。

「えーと、他には何々? 〝いざとなれば貴方を僕の日本刀で守ります〟」

「通報されますよ」

 突っ込みどころ満載の劉鳴殿の自己紹介だ。由宇と奈苗は、当初こそ真剣な表情だったものの、今では白けていることがよく解る。夕食後、空気が緩み切った客間で、劉鳴殿のお嫁さん探しに唯一真面目なのが楓である。良い子過ぎるだろう。

「自己紹介の結び。〝愛があれば、年の差なんて♥〟」

「…………」

 パンをくわえたツインテールの少女が「遅刻遅刻~」とか言いながら走って、曲がり角でイケメンとぶつかる確率のほうが高いような気がする。ごくごく普通に、まっとうに婚活すれば良いのに。高望みも良いところだ。

「そこらでナンパしたがええちゃいますのん」

 芳江が尤もなことを言うが。それは餌食になる女性に気の毒だ。容姿は良いし剣の腕は立つし、喰うにも困らないから、不思議ちゃん要素を除けば引く手あまただろうと思えるが、そう簡単にはいかないのが世の中だ。

「耀と言う女性が椎名の仲間にいる」

 大海が、口を開いたと思えば爆弾を投下する。こいつ、狂気か正気か。

「美人ですか年齢はどのくらい」

 がっつき過ぎだ、劉鳴殿。

「磨理程ではないけれど、それなりに美人。年は二十代後半かな」

「イエス! 行ける! ことさん、彼女の相手は僕に任せてくださいねっ」

「師匠、何の相手をする積もりですか」

 婚活条件で仕合の相手を決めないで欲しい。大海も要らん情報を開示してくれる。

「重音さんはどうかなあ?」

「楓さん!」

 楓に口止めしようとするが、時既に遅し。劉鳴殿の耳が心なし大きくなったような。

「美人だし、二十代だし、優しい人だし」

「楓ちゃん。その、かさねさん? についてもっと詳しく」

「うんと、ルネ・ラリックが好きだよ」

「芸術的! 来たこれ。いやあ、あかるさんとかさねさん、二人もお嫁さん候補が出来てしまいましたか。これなら婚活アプリは必要なかったですね」

 本気で言ってるのか。今頃、重音嬢と耀がそれぞれくしゃみしているかもしれない。



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― 新着の感想 ―
[一言] この師匠……その内自分で理想の紫の上を育てればいいじゃんとどこから幼女攫ってきそうだな……。 ただ楓に悪意はない。無垢だ……。
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