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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第三章
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一筋の道

 最近になって思うことがある。

 私は私の芯を揺るがせにしてはならない。それは私個人の為でもあり、私に連なる人々の為でもあった。私が揺らげば皆が揺らぐ。だから私は、どんな時であっても、己を確固としていなくてはならない。

 ならないと思いながら日本酒を傾ける。庭にすだく虫の音は按配が良い。


 康醍が逝った。


 最期は家で、実加と千秋に看取られての往生だった。私と聖は、その臨終に立ち会った。幸せになりなされと言われた。それが最期だった。皺が刻まれた老兵の顔は、満足そうに笑んでいた。私が、安らかにお眠りください、と声を掛けると、千秋が声を上げて泣いた。医者の立ち合いの元、家族に見守られて逝った康醍は幸せだったと言えるだろう。音ノ瀬本家は無宗派だが、康醍の家は浄土真宗だったので、実加が葬儀の段取りなどつけた。

 翌日は一族の人間がこぞって押し寄せた。僧侶も来て、来客には食事が供され、うち程の広さもない康醍宅は人でぎゅうぎゅう詰めになった。客には俊介も秀一郎も、そして恭司も来ていた。黒い服の集団は、それなりに威圧がある。

 火葬場まで見送り、ある一つの時代が幕を閉じたと感じた。彼は祖父も隼人のことも見知っていた、数少ない一人だった。

 家で、夜、日本酒を飲みながら思い返す。


 最期の最期に。

 家族ではなく、私に幸せになれと告げた。


 康醍は、私の流産に涙していた。私は彼に、どれだけ慈しまれていたのだろう。故人に恥じる生き方はすまい。胡瓜の糠漬けを齧り、酒を飲む。今日は比較的、涼しく、客間の冷房は入れていない。それでも風が通り、髪を揺らす。釣忍も歌う。偲ぶ人がまた一人増えた。揺蕩う月桃香の白い煙に、私は故人の面影を思う。康醍は音ノ瀬の良心的な長老だった。彼が、ともすれば暴走しがちになる一族の人間を抑え、束ねていたことはこれまでに何度もあった。これからは、私が身一つで励まねばならない。そう考えていると、右に聖が座った。左にかささぎが座った。そして背中に、ぴとりと楓が貼り付く。

 私は苦笑した。これだから。

 独りではないよと伝えてくる。ああ、解っている。だからこその、一筋の道。眩しく照らされるそれを、逸れず過たず歩んで行かなくてはならない。私たちはそれから、酒を片付けて、冷たい緑茶と和菓子洋菓子を縁側に持ち込み、食べて飲んだ。時折そこには笑い声が響き、団欒の図が清かに描かれている。私は大丈夫だから。


 安穏と空から見ていろ、康醍。



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