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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第三章
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飴と鞭

 昨日、麒麟と昴が隼太を迎えに来て、そのまま彼は菅谷邸に泊まると連絡が来た。麒麟たちが同伴であれば、隼太を行かせることも出来る。対術師のボディーガードとして、菅谷の陰陽師兄弟は最適だ。台風はのろのろと進路を進んでいる。私たちの住まいにまで来るのに、もう少しかかりそうだ。そうは言っても空は曇り、雨は斜線を描いている。朝、玄関先に打ち水をしていると、帰宅した隼太の靴に軽く掛かった。

「お帰りなさい。何か収穫はありましたか」

「まあな」

 菅谷兄弟も一緒だ。

 隼太がなぜ菅谷邸に行ったのか、察しない私ではない。それは人の生における暗部で、出来得るなら楓などには知らせたくないことだった。ともあれ、私は九倉兄妹と聖も呼んで、客間で麒麟たちと座卓を囲んだ。丁度、一族から白桃が届いたので、冷蔵庫で冷やしておいたそれを剝いて硝子の小鉢に盛って、座卓中央に置いている。釣忍が賑やかだ。じめっとした熱気に、冷房で対抗する。客間の空調は特に効きが良い為、麒麟たちも一息吐いた表情をしている。ばくっとフォークに突き刺した桃にかぶりついたのは隼太だ。咽喉が渇いていたのかもしれない。

「椎名、耀、小栗、紗雪。これが、長老たちに就く〝椎名派閥〟の顔触れだそうだ」

 昴が、桃をマイペースに食べる隼太を横目で見ながら言う。

「どれもが、一線級の術師。紗雪は氷雪系の術師らしい。天響奥の韻流とも近しいかもね」

 麒麟が合いの手を入れるように続けた。

「小栗は、拳や脚に呪力を籠めて戦う、近接格闘系の術師らしい」

「それは、麒麟さんたちにも出来ることですか?」

 麒麟と昴の視線が交錯する。

「昴の得意分野だ。本当は敦盛の拷問も、それでやって良かったんだけど、手の内はなるべく明かしたくないしね」

「爪を剥いだだけで悲鳴を上げていた。情けない。それから銃弾を両脚にぶち込んでやって」

「もう結構です」

 隼太はにやにやしている。私の嫌がる態度を楽しんでいるのだ。子供か。

「耀は?」

「敦盛はそこまで知らないって。でも、相当な実力者らしいよ」

「敵を欺くにはまず味方からですか……」

 そこで麒麟が由宇を見る。

「由宇君は、どんな戦い方をするの?」

 由宇は謎めいた笑みを浮かべる。同業者として、だいぶ踏み込んだ質問ではあった。

「呪力を練り上げた鞭を使います」

「怖っ。実は女王様系なのね」

 由宇が鞭を振るう姿は、確かに絵になりそうだ。麒麟たちが言うには、敦盛を抑えることで、椎名たちをおびき出すか、また、夢に襲来したところを捕らえるか、そのあたりが妥当な方針らしい。しかし、敦盛を捕らえられた今、椎名たちが、またおいそれと夢を訪問するとは考えにくい。逆に来るとすれば、相応の勝算あってのことなのだろうから、やはり私は麒麟たち、由宇たちを頼りにするしかない。

「待ってたら来るよ。きちんと準備してね」

 不吉な予言をするのは麒麟だ。薄笑いを浮かべていて、こんな時の彼はちょっと怖いと私は思う。〝きちんと準備して〟来た椎名たちを、同じく〝きちんと準備した〟麒麟たちが迎え撃つのだ。壮絶な呪術バトルとなるかもしれない。

「楓さんが狙われる可能性はありませんか」

「ないとは言えない。だから、特に彼女の夢は警戒するよ」

「僕たちもそのようにします」

 由宇が言い添える。麒麟が奈苗のほうを向いた。

「奈苗ちゃんの呪術は?」

 奈苗は薄い唇を開き、言い淀んでいたが、声を発した。

「人形を使います。それには相手の名前を知ることが有効です。ですから、今回、敵の名前が知れたのは幸いでした。名前を知っていたほうが、効力は強いので」

「それはそれで怖いね」

 苦笑した麒麟に対して、奈苗は綺麗な微笑を返して見せた。



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