表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第三章
772/817

お遊戯の時間

 大海にコトノハを届ける術はないものか。大海が連れ去られてから、彼からのコトノハを風が知らせたことはない。長老の結界が阻んでいるのか、大海にその積もりがないのか。私は、通り雨が過ぎて気温が下がった外気に縁側より手を伸べ、風に触れるような仕草をする。無論、触れない。しっとりした空気が指に纏わりつくだけ。

「大海さん。聴こえていたなら返事をしてください。今、どこにいますか」

 返事を風は運ばない。私のコトノハは虚しく霧散する。長老たちや椎名の接触を待つ時間が惜しい。彼はとても繊細な心の持ち主だ。ゆえに、狂気に堕ちもした。いっそ上賀茂に乗り込むかとも考えるが、恐らく徒労に終わるだろう。長老たちは、私たちに尻尾を掴ませるような下手は打つまい。麒麟の捕らえた敦盛は、無言を貫いていると言う。かと思えば、まるで関係ないことをペラペラ喋り、麒麟たちを困惑させるのだとか。大海の処遇についても語らない。これでは情報として使えない。

「ことさん? どうしたの?」

 涼し気なワンピース姿の奈苗が縁側に来た。ワンピースの色はラヴェンダーで、図らずも同じくミントグリーンのワンピース姿である私と色違いのようになっている。私は奈苗に、大海の抱える複雑な事情を話した。磨理のことも、知る限り詳細に。

「磨理さんの魂魄が、ことさんに逢いに来たの?」

「一度だけ、逢いました」

 私の横に座った奈苗が、考える表情を見せる。

「それであれば、大海さんにも逢える可能性はある。もし、今、彼から何の音沙汰もないことの裏に、そうした事情があるとすれば納得が行くわ」

「椎名たちが、意図的に磨理さんの魂魄を利用している……?」

「いいえ、恐らく、磨理さんの自由意志でしょう。大海さんが囚われているのは、きっと術師に居心地の良い場所。つまりは霊場のようなところだと思うの。それであれば、磨理さんも姿を現しやすい」

 そうなのだろうか。本当にそうなのだとしたら、私は寧ろ大海の為に喜ぶ。彼は魂の底から、磨理の存在を求めていたから。事態がそう簡単ではないことは判っていたが、それは紛れもない私の本音だった。


 菅谷邸の一室では敦盛が拘束され、監禁状態にあった。

「いい加減、色々吐いて欲しいんだけど」

 麒麟が、銀色の狼を抱き寄せて毛並みを撫でながら、座り込んだ状態で言う。狼は、菅谷祐善の遺した式神・紫具羅である。今は昴が継いで主となっている。その昴は、弟の後ろに、両腕を組んで立っていた。敦盛はぎっちりと縛られた後ろ手を不快そうにしている。

「ほいそうですか、て言うと思うかい」

「思わないけどさあ。呪術による拷問、なんてのも嫌でしょ」

 敦盛が双眸を細めた。

「お宅らにそんな度胸があるのかい。人を呪わば穴二つ、だ」

「麒麟。代わるか?」

 それまで麒麟に敦盛を一任していた昴が声を掛ける。麒麟が黙って立ち上がり、昴に場所を譲った。紫具羅は、今度は主である昴に寄り添う。

「確かに俺たちは、呪術による拷問を良しとしない。己に引け目があれば、術を行使するにおいて必ず歪みが生じ、それは術師に返る。だから、そっち方面のスペシャリストを呼んでおいた。入ってくれ」

 昴の声に従い、入室したのは紫陽花色。

 隼太だ。殺風景な室内に、紫陽花が添えられる。隼太はにこやかだった。どこかしら、相対する者を薄ら寒くさせるようなにこやかさだ。敦盛が鳥肌立つ。

「必要な物があればこちらで用意する。音ノ瀬隼太」

「そうだな。じゃあ、よく切れる包丁とナイフをくれ」

 昴に言って、隼太は無造作にコルト ガバメントをコートから取り出した。財布でも取り出すような軽やかさだ。見ていた麒麟は、若干、辟易した。この男に拷問を受けるだなんて、敦盛も気の毒だ。無論、止める積もりはない。部屋から出た昴が手にして戻って来た包丁とナイフを受け取り、隼太はますますにこやかになった。満面の笑顔で敦盛に声を掛ける。


「さあ。楽しいお遊戯の時間だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] コワい隼太が戻ってきました((((;゜Д゜)))
[一言] 隼太の本領発揮。まあ、ことさんが見れば制止すること受けあいでしょうけども。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ