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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第三章
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筒封じ

 深夜の知らせに碌な物はない。

 大海が連れ去られたというアーサーの一報は、寝ていた私たちの頭を嫌でも覚醒させた。アーサーにスポーツドリンクをマグカップに入れて渡す。彼は少しの躊躇の後、礼を言ってそれを飲んだ。

「助けに行かないと」

「どこにどうやって?」

 いきり立つ私に冷静な意見を差し挟んだのは、さらわれた大海の息子である隼太だった。

「京都。上賀茂神社に……」

「行けばいつでも奴らはいるのか? 霞のような存在を、どうやって捕らえて大海を取り戻す。俺たちに出来ることはあいつらからの接触を待つこと。菅谷の奴らの助力が必要だ。持久戦を覚悟したが良いだろう」

「俺も彼の意見には賛成だ。相手の力は底が知れない」

 マグカップを空にしたアーサーが隼太に同調する。

 虫の音が聴こえる。沈黙が落ちた客間の中、それはやたら清々しく響いた。一番近い肉親である隼太が、最もこの事態に落ち着き払っている。それは彼が今までに潜り抜けた修羅場の場数を思わせた。

「夜の一人歩きは避けるべきではありますね」

 聖が生産的だが消極的なことを言う。解っている。待つしか手がない。けれど私にはそれがもどかしいのだ。じりじりと精神を削られる心地がする。アーサーに厚く礼を述べて帰し、皆が散開した後も、私は縁側に座り、一人考え込んでいた。聖が当然のように隣にいるのが心強い。

「大海さんは恐らく正気ではなかったんでしょう」

「ええ。磨理さんを、捜していたのかも」

 聖に、私も頷く。

「麒麟さんたちは長老をどのように縛する積もりでしょうか」

 聖が、これに思案の顔をして口を開いた。

「筒封じではないかと」

「筒封じ?」

「修験道系の呪術です。邪鬼・悪魔化した生霊や死霊を封じ込める為に青竹と人形を使うものです。人形には祟られている者の性別と願意を記します。原則として土中に埋めるものですが、より確実な効果を狙う為、麒麟君たちは恐らく長老らと接触して封印しようと考えているのでは」

 私は聖の蘊蓄に感嘆の息を吐いた。

「よくご存じですね」

「呪術系のことは、一通り調べたことがあります。副つ家として何かの役に立てないかと」

 優秀な補佐役である。

「大海さんは無事でしょうか」

「無事でしょう。利用することが目的の拉致でしょうから」

 そうだろう。だから私たちにはまだ僅かに余裕があった。隼太の冷静もそれゆえだろう。尤もあの男は、大概の状況において我を忘れることはないのだろうが。もしさらわれたのが聖であれば、私はもっと取り乱していた。聖は供物として狙われているのだ。命の危険は、大海よりもはるかに高い。

「一人にならないでください」

 私の声は哀願の響を帯びている。本当は、一人にしないでくださいと言いたいのかもしれない。自分でもよく解らない。聖が、私の髪を一房掬い、口づけた。

「大丈夫ですよ。僕のお姫様を置いては逝きません」

 すだく虫の音がほんの少し優しくなる。喪えない者は余りに多い。大海もまた、その一人だ。磨理をいつまでも恋い慕う、憐れな人。助け出さなくては。それにはひたすらに待機に徹するしかないのだが。息子の隼太でさえ落ち着いているのだ。私ももっと頭を冷やさなければ。聖が、冷たい緑茶をインクブルーの茶器に入れて渡してくれる。一口飲むと、涼やかさに落ち着いた。

 その後は何を語るでもなく二人、縁側にいた。九倉の兄妹の行く末も、私の心の隅にはあった。対処すべき問題は、山積していると言えた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 相も変わらず色々なことに手を伸ばそうとすることさん。 数人なら長老たちのことにのみ注視すべし。些事は捨て置けと一喝するのでしょうが……。というか彼にして見れば九倉兄妹のことなど問題外という…
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