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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第二章
757/817

いつでも

 単独行動をなるべく避けるようにと言う、ことの言葉を聴く隼太ではなかった。夏の長い日が暮れようと言う黄昏時、近所を散策する。揺蕩う、紫陽花の色。蝉の声が控え目に聴こえる。遠く山の稜線を見れば、まばゆいばかりの黄金が蕩け入るところだ。薄紫に染まる薄暮に、隼太が何を思うか知れない。隼太の上空を烏が一羽、旋回している。隼太だ。気が付けばいるな、と思いながら隼太は特に構うでもない。緩やかな勾配を降りる彼に、掛かる声があった。


「あのさあ。解りやす過ぎるんだよ」


 隼太はにやりと笑んで振り向く。自分よりも上のコンクリートに立つ男。椎名だ。紫のメッシュを弄りながら、口を尖らせている。

「囮には持って来いだろう?」

「あんたは生け捕るのに気乗りしないんだ。殺すほうがまだ楽だ」

「やってみろ」

 歌うように隼太が煽ると、椎名が嘆息した。

 発声は同時だった。

(もく)

祝上(しゅくじょう)奉る」

 隼太の「黙」のコトノハを、椎名は服用しない。呪術を行使するにおいての、特別な力が作用していると思われた。

 複雑な印を切る。

(あめ)切る、(つち)切る、八方(はっぽう)切る、天に八違(やちがい)、地に十の文字(ふみ)、秘音、一も十々、二も十々、三も十々、四も十々、五も十々、六も十々、ふっ切って放つ、さんびらり」

 四方八方から、隼太に見えない風の刃が殺到する。裂傷が走り、鮮血が吹いた。

()

 言いながら椎名との間合いを即座に詰め、回し蹴りを放つ。蹴りは椎名の脇を掠った。椎名が下方から拳を繰り出す。隼太はこれを肘で防いだ。

「魔を払う秘文とは、失礼な奴だ」

「効果あったじゃないか。やっぱりあんたは魔性だね」

 隼太が椎名に凄みのある笑みを浮かべて見せる。

「しかしくま、つるせみの、いともれとおる、ありしふゑ、つみひとの、のろいとく」

「呪詛返しの秘言かよ……! コトノハ遣いじゃないのか」

 今度は椎名を風の刃が襲った。

「生憎、ハイブリッドでね」

 今度こそ、隼太の下段の蹴りが椎名の脚を直撃した。

(ぼう)(とう)(ばく)

「おおっと」

 椎名が両掌を前に押し出す仕草をした。

「返し奉る」

 コトノハの処方が、〝突き返された〟。

 行き場を失った力は霧散する。

(おう)

 椎名が唱えた。兵難賊難に遭遇した時、書いて唱えると難を逃れることが出来る。書く動作は省略されている。隼太の双肩に重圧が掛かる。先程の椎名への蹴りは効いていた。ここから畳み掛けたいところだったが、椎名の発した術がそれを阻む。呪術とは面倒だ。コトノハとは勝手が違う。その癖、重なる点もあるから更に面倒だ。椎名が、ジーンズの後ろから小刀を無造作に取り出した。抜き放つ。


「言ったろ。殺すほうが楽だって」



明日も開局するかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり当然のように呪術も使える隼太。まあ、この男が使いうる手札を身に着けない道理などない。 というよりもやはり、ことの言うこと聞いて穏便に済ますつもりはなかった隼太。 まあ、そのために窮…
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