花火
少し早い気もするが、庭の砂地で花火をすることになった。蝉も鳴き始めた時節だ。線香花火がメインで、余りはしゃぐようなものではない。隼太と大海も誘うと、隼太は、俺は良いと言って、大海はついて来た。奈苗も快復して、みんなで手持ち花火を色々と堪能する。火薬の独特の匂いが、月桃香の匂いと混じり合っている。長く空に滞在した日が姿を消し、一番星が見え始めた頃、早めの夕食を済ませた私たちは花火に興じた。縁側には切った西瓜も置かれている。芳江始め男性陣は、勢い良い手持ち花火を選んで着火している。
「魔法使い~」
「魔法使い~」
芳江と劉鳴殿が遊ぶのに加えて、大海もにこにこと続いている。彼が今、正気なのかどうかは解らない。私は縁側に腰掛け、聖と線香花火をしていた。ジジ、と音を立て、最後には丸い球になってぽとりと落ちる。花火の醍醐味はこれに尽きると思っている。由宇と奈苗も離れたところでしゃがみ込み、線香花火をしている。彼らの後ろ姿に思うところはあったが、私はそっと見守るだけに留めた。何と言えば良い。禁断の恋に苦しむ二人に。西瓜にかぶりつくと水っぽい甘さがあって、これぞ夏という感じがする。春夏秋冬のある日本によくぞ生まれけり。花火は楽しいけれど、少し寂しい。何かが終わる予感がするから。私は、その何かが、この平穏な日常でないようにと祈る。隣に座る聖もそうだろうと目を向けると、赤い双眸とかち合った。見られていたらしい。玉虫色の単衣を着た聖は、花火の照らす光の中、幽玄の美を体現している。
「何を考えておられました?」
「この日常が続くようにと。聖さんは?」
「僕もです。皆と、こと様の平穏無事を祈っていました。線香花火は風情があるけれど、儚くて、僕は悲しくなる時があるのです」
私は切なくなった。紺青の空には細い月が出て、強く光る星もあり、皆はこんなにはしゃいでいるのに、この人はいつから、このように孤独であったのだろう。
「私がいますよ」
「はい。こと様が、生まれて来られて、僕の世界は明るくなりました。貴方は、寒々しい世界を温かく照らす光でした」
私は無意識に左手首のブレスレットに触れる。聖は解っているのだろうか。自分こそが私を救ってくれた光であるということを。
「私は許さないから」
「何をです?」
尋ねる聖の声は穏やかだ。
「貴方を私から奪おうとするもの全て。貴方に苦痛を強いるもの」
「僕は果報者ですね」
聖は笑った。透明度の高い笑顔で、私の胸は締め付けられるように苦しくなった。




