師匠の婚活
詮無いことは多いなと思う。菅谷邸から帰り、私は縁側から庭を眺めていた。そろそろまた、草むしりをしなくては。今日も摩耶と景は新居を物色に行っている。景のプロポーズは無事に受け容れられたらしい。宝飾店で景が選んだのは、四角いプリンセスカットのダイヤモンドの指輪だった。媚びずに潔いデザインが摩耶に似合うと思う。差し迫った非常時に景と新居を見に行く、と言う行為に後ろめたさを感じていた摩耶の背を押したのは私だ。長期戦になるだろうから、動ける内に動いておいたほうが良い。式は来年の六月を予定しているらしい。ジューンブライドだ。一方、撫子と芳江はそれより早く今年の十二月。雪が降る中の挙式、と言うものに撫子はかねてより憧れがあったらしい。詮無いことの多い現実だからこそ、幸せを掴める人には掴んで欲しい。雲一つない晴れ間に、私は出雲の双子のことを思う。控え目な風が吹いて釣忍が鳴った。
「だーれだ」
目隠しされる。気配は察していたし、声で難なく判る。
「莫迦師匠……」
「莫迦とは何ですかー。仮にも師匠に対してー」
良い大人がぶすくれても可愛くない。とても実年齢とは見合わない頬の肌を人指し指でぷに、と突く。
「今日も婚活したんですか」
「ええ。道行くお嬢さんに、僕のお嫁さんになってくれないかと」
「結果は」
「訊かないで」
ずん、と落ち込んでいる。通りすがりの年齢不詳長髪アルビノ男の求婚に、即座に応じられる女性などいるものか。私は溜息を吐いた。
「良いですか、師匠。結婚と言うものはですね、年月と共に想いを育んでこそのゴールなんです。ちょっと見た目が良いお嬢さんにおいそれと提案するものではないのですよ」
「照れ屋さんが多いんですね」
そういう話ではない。脱力する。
しかしこれは良い脱力だ。劉鳴殿と話していると、ガス抜きになって精神衛生上、よろしい。
「報われない恋って、どうなんでしょうね……」
つい、ほろりと口から呟きが零れる。
「ん? どういう意味で?」
「いえ、何でもないです」
劉鳴殿が笑った。どこかしら凄みのある笑みだった。
「どんな関係性であれ、相愛であれば結ばれて良いと僕は思います。そうでない世の中など、何の価値がありますか」
「…………」
劉鳴殿は悟っているのかもしれない。奈苗たちの気持ちに。元から飛び抜けて勘の良い人だ。そして劉鳴殿の言うことは、私の胸、奥深くの本音と合致するものだった。
由宇も恐らく、奈苗と同じ想いだ。それならば私の採る道は一つ。
「劉鳴殿」
「ん?」
「立派な葬式を上げますからね」
「しつこいですよ。賞賛や感謝ならもっと言い回しを考えなさい」
「劉鳴殿に惚れなくて良かったです」
「まあ。この子は僕の何がいけないって言うのかしら?」
身体をくねくねさせながら言うな。
「そう言うところですよ、そう言うところ」
三つ編みの白髪をぐしゃぐしゃにしてやると、劉鳴殿がやーめーてーと悲鳴を上げた。




