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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第二章
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アリアドネの糸

 菅谷邸に出向いた。私と聖、大海と隼太、由宇の顔触れだ。いくつかある内の客間の一つに通される。麒麟と昴が室内の畳に胡坐を掻いている。出された茶を飲んで人心地つく。じりじりと照りつけるような陽射しの中を来たので、冷房の効いた部屋に和む。

「呪術のサンプルを持ち帰ってみて判ったことがある」

 開口一番、麒麟が言った。

「長老たちは現身(うつしみ)ではないかもしれない」

「どういうことだ」

 麒麟が隼太を見る。

「言ったまま。念の塊のような存在じゃないかと思う」

「……消し去ることも或いは可能、と?」

 由宇の慎重な問いかけに、麒麟は頷く。

「場合によっては。但し、椎名のほうは現身だろうから、消す、と言う訳には行かないかもね」

「目下、抑えるのは椎名のほうか」

「接触しているのが彼だから、その機会のほうがあるだろう」

「生け捕りに出来るかな」

「したいものだね」

 隼太と麒麟の間で物騒な会話が続く。俯いた私に麒麟が尋ねる。

「どうしたの、ことちゃん」

「いえ、もっと穏便なやり方はないものかと。出来れば血が流れないような」

「相手の出方が出方だ。生温い考え方は捨てたほうが良い」

 昴が窘める口調で言う。

「お前が日和見に走れば、大事な鬼兎が盗られるぞ」

 隼太の低い声は、私に対して何より効果があった。聖を供物にさせはしない。

「では、長老たちを調伏すると」

「やってみようと考えてるよ。機会は彼らが再び夢枕に立った時だ。でも、まずは椎名かな」

 私は青磁の湯呑みを手に取る。温かい。この温かさが、彼らにもあるのであれば。

「コトノハは夢の中でも処方可能?」

「普通の夢ではない空間ですから、可能だと思います」

「緊縛のコトノハを」

「解りました」

 茶と一緒に供された水羊羹を食べると、す、と冷えて口に嬉しい。

「奈苗ちゃんの具合はどう?」

「だいぶマシになりました。今日は大事を取って休ませています」

「うん、それが良い」

 麒麟が由宇の言葉に頷く。

「専守防衛では埒が明かない。こちらからも攻め手を講じるぞ」

「異議はない」

 昴に、隼太は同意した。

 私は、そんな彼らを、どこかぼう、とした目で眺めていた。

 争わずに済む方法はないものだろうか。瑠璃雀たちの件で判ったように、この分だとまた、血が流れる。そうではなく。そうしたことではなく。子守歌を歌うように、椎名たちを包み守るような、そんな抑え方はないのだろうか。三席などは最早、どうでも良い。嫋やかな、しなやかな方法で彼らを包みたい。これは私が女だから思うことだろうか。帰ったら、摩耶や奈苗に話してみよう。甘いと嗤うような真似を彼女たちはしないだろう。私は、細い糸を手繰り迷宮から脱するように、そんなことを考えていた。話し合いを終えて聖たちと帰宅して、夕食の準備に取り掛かる。一通りそれらの作業を終えたら入浴し、奈苗を見舞った。奈苗には、由宇の隣室を宛がっている。熱はもう下がったが、全快までにはまだ少し掛かるだろう。奈苗に今日の話し合いの仔細を伝えると、私も攻めに転じたが良いと思う、と頼もしい言葉を告げる。そんな奈苗を見ながら、私は胸中で語り掛けた。


 ねえ、奈苗。

 私は解ってしまったよ。貴方が身を焦がす相手が本当は誰であるのか。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ことさんは相も変わらず見ず知らずの他人――それも敵にまで慈愛を向けてらっしゃるが、隼太や昴男衆は剣呑な姿勢なのもいつものこと。 そりゃ摩耶と奈苗は笑わんだろうが、景はどうかね? そして…
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