世界を盤上にして
「誠さん……ですか」
『中臣誠と名乗ったな』
「貴方は誰です」
『椎名と呼ばれている』
「麒麟さんは無事ですか」
『今のところ。お前は少し勘違いしているようだが、あの男の自己防衛力ははるかに高い。なまじ、幼少から陰陽の大家で過ごして来た訳じゃない』
「なぜ、このような真似を」
『注意喚起だ。俺は優しいからな』
まだ動悸は収まらない。
「長老たちの手先になる理由は」
電話の向こうで嘲笑が聴こえた。
『俺があいつらに協力してやってるだけだ。手先は、どちらかと言えば長老共のほう』
「貴方は何がしたいんですか」
『遊びだよ』
そこで通話は切れた。途中からはスピーカーにして、劉鳴殿にも聴いてもらっていた。流石に厳しい顔つきになっている。
「声色も変えられるのですか。番号に出られたのは……」
「恐らく、術力で電波を乗っ取ったのでしょう」
「しかし、椎名とやら、狙いが読めません。本当に、只の遊戯と思っているのか」
私たちは縁側に移動した。どちらからともなく、風に当たり、不気味な今の現象を忘れたかったのである。湯呑みも煎餅も置き去りになる。空の高くに白っぽい太陽がある。吹く風は温く季節を知らせ、釣忍を歌わせた。
「能力の高い愉快犯は、始末に悪い」
「……本当に、それだけでしょうか」
「と、言うと?」
「何か、表に出さない真の目的があるような気がして」
「成程」
タイミングよく、聖が客間に来たので、縁側に手招く。今の出来事を話すと、微かに眉根を寄せた。
「術力があるとは言え、麒麟君も心配ですね」
「昴さんもいます。本家に戻れば万一の事態もないのではと」
「連絡するのですか」
「はい。今度こそ、椎名さんが出なければ良いのですが」
麒麟を装いおおせることも出来た筈だ。昴になりすまし、私たちにそうと悟らせないことも可能かもしれない。そんな懸念はあったが、私は今度こそ麒麟と、それから昴に連絡して、諸々の懸念を伝えた。麒麟も昴も、恐らく本物だった。昴はすぐに麒麟を本家で保護すると言い、忠告の礼を述べた。本人かどうかの判断基準はコトノハだった。椎名が麒麟を騙った時は疎かになっていた感覚を鋭敏に研ぎ澄まし、兄弟の声を判別した。コトノハは偽りを許さない。
「寂しいね」
ぽつりと漏れた私の呟きに、二対の紅玉が向かう。
「どうしましたか、こと様」
「いえ、椎名さんのことを考えたら、自然と言っていました」
寂しいね。
君は世界を盤上にして、独りぼっちで遊んでいるんだね。




