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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第二章
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鳥籠から鉄砲玉

 和久と岡田が隠れ山からうちに到着した。

「こちらがもたついてる間に、急ピッチな事態になってるみたいだね」

 岡田が、顛末を聴いた後に、目を白黒させて言う。和久は大人しく茶を飲んでいる。

「撫子さんたちと一緒に、京都に行っていただけますか」

「良いよ」

「異存ない」

 その割に、煎餅の載った鉢を運んで来た撫子にびくついているのはなぜか。撫子はにこにこと愛想が良い。彼女は面食いなのだ。そんな撫子が、唯一、顔でなく選んだのが美貌の持ち主である芳江だったのだから、世の中解らない。上賀茂神社には、撫子、芳江、岡田、和久、麒麟で行ってもらうことになった。段取りの相談をして、くれぐれも無茶はしないようにと念を押す。和久と岡田はうちに泊まり、翌朝、撫子たちと一緒に京都へと発った。偽誠の来訪以来、うちに張られた結界は、麒麟によって強化されている。私は唐辛子の利いた煎餅と胡麻煎餅を、茶を供に縁側でばりぼり食べていた。茶器や皿は臼杵(うすき)(やき)。第十代臼杵藩主が享和元年(1801)頃、ご用窯として窯を開いていたものの、いつしか廃れてしまった幻の焼き物だ。最近になって試行錯誤の末に復興された。温かみのある白と、花びらを思わせる造形が端的で美しい。ティーカップに緑茶を入れて飲んでも、これなら違和感がないように思う。ちろりといい、臼杵焼といい、人は往時の美に焦がれるものか。術師もまた、然りだろうか。往時を追い求め、三席を巡る。無益に相争わせようとする長老たちは腫瘍だ。大人しく隠居してもらわないといけない。事はなるべく穏便に運ぶのが良いのだ。そこで私は偽誠や式たちのことを思い出し、滅入る。とても穏便とは言えない出来事だった。これからもあれが続くと思うと先が思いやられる。

 空は薄く雲が張ったようで、陽の光が淡い。こんな天候でも紫外線は強いらしいから、私は楓に日焼け止めを入念に塗ってから学校へと送り出した。緑茶をまた一口、飲む。風が撫子の声を運んだ。無事、京都に着いたらしい。重畳。もーちゃんを抱っこした聖も来て、隣に座った。

「首尾よく行ってくれると良いですね」

「無理はしないよう言ってあります。長老たちを牽制するだけで良いのです」

 聖が私にもーちゃんを手渡す。

「事あれば、芳江君は初めから鉄杖を使う積もりのようです」

「相手が相手ですから、きっとそれが正しいでしょう」

 私は、もーちゃんを抱っこしてむぎゅう、と抱き締めながら答えた。その時、結界が異様な軋みを生じた。そうと知れたのは、聖も同じだったようで、私たちは顔を見合わせてから空を見る。私たちの住む街、丸ごと覆うように巨大な結界が張られている。――――長老たちに先手を打たれた。私たちは囚われ人となったのだ。家にいた劉鳴殿や摩耶、景、かささぎ、そして大海と隼太たちも巨大結界の気配を感じたらしく、縁側に来る。息苦しい。これでは、風による撫子たちとの連絡も思うようには行かないだろう。庭を見ると和装の佳人が淑やかに立っていた。

「……佐保子さん」

「伊勢は長老方に就きました。音ノ瀬殿におかれましても、粛々と三席になられますよう」

 表情に翳りがあるのは、後ろめたさゆえだろう。麒麟の結界を突破出来たのは、彼女の実力に相まって、敵意や害意が検知されなかった為だ。佐保子はすぐに姿を消した。

「面白くなってきたな。俺を虜囚扱いとは、度胸がある」

「何も面白くありませんよ」

 隼太は相変わらずだ。私たちは籠の鳥となったのに。今は麒麟の結界に守られているが、より強大な結界を張った長老たちのほうが、私たちを狙い撃ちしやすい。主導権を取られてしまったのだ。

「まあ、お茶でも飲みましょう」

 すると、隼太が今度は呆れ顔になる。

「豪胆なのか、呑気なのか」

「いえいえ、まあ、今すぐどうこうなることでもありませんし」

 臼杵焼のティーカップに人数分の緑茶を注ぎ、煎餅を皆で音高く食べていると、大概のことは何とかなるような気がしてきた。撫子たちには一連の事情をラインで送っておく。大変ですねえ、と言う、実に彼女らしいおおらかなメッセージが帰って来たので、何だか笑ってしまう。聖や劉鳴殿や、皆がいてくれる限りは気丈でいられることが嬉しい。唯一の心配は、隼太が鉄砲玉のように長老たちに喧嘩を売るのではないかと言うことだった。



臼杵焼については生活快適マガジン『謳歌』参照。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 包囲網を狭めてきた長老(老害)たち。 そして暢気なことさんと喧嘩売られて黙っちゃいない隼太。ますます目が離せない展開になりそう。
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