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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第二章
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神の手の上で踊る

「あーらら。どうやらばれちゃったようだねえ」


 〝中臣誠だった者〟は、口角を釣り上げた。紫の霞棚引く中、今時の風貌をした彼の存在は異質だ。

「お前が瑠璃雀の件まで教えるからじゃ」

「サービス精神大事よー。あれで完全に信用させた積もりだったんだけど。親側へのフォローまでは手が回っていなかった。失敗、失敗」

「まずは白を手に入れよ」

「音ノ瀬聖ね。解ってるよ」

 その空間には長老たちに囲まれ、談笑する誠の姿があった。


 私は黒い受話器を置いて、情報を整理しようと努めた。

 中臣誠は死んでいる。

 では、私たちが会った彼は、何者だ。鹿島の中臣を名乗り、私たちに近づいた目的は。はたと思い至る。〝麒麟の結界は警告音を鳴らした〟ではないか。誤作動かと放置していたが、そうではなかったのだ。中臣誠を名乗る男にはあの時、私たちに対して敵意も害意もあった。こう考えると、瑠璃雀の話の信憑性すら疑わしくなってくる。私は踵を返して、このことを縁側にいた聖に告げた。聖は顎に手を当てて考える素振りを見せた。もうすぐ薄暮。長い夏の一日が終わる。月桃香の白い煙が揺らめいてまとわりつく。夕食の用意は撫子たちに任せた。相変わらず、台所をふらふらしていた劉鳴殿が、私たちのほうに寄って来る。事情を話すと、こちらも思案顔になった。

「長老たちの回し者だったと言う訳ですか」

「そうでしょうね。しかし、私も、伊勢殿、出雲殿、そして麒麟たちすらもそれに気づかなかった。完璧に成りきっていたのだと考えると、ぞっとします」

「瑠璃雀は」

「恐らく、事実かと。真実の中に嘘を一滴。尤もらしく思わせるには、それが一番です。彼のコトノハに嘘は感じられませんでした」

「しかし、中臣誠という素性自体が嘘だったのでしょう。コトノハの聞き分けが出来ているかも怪しいですよ」

 劉鳴殿と私の遣り取りを、聖は黙って聴いている。紅玉の瞳は思考して、赤を深くしている。

「こちらが知ったことを、恐らくはあちらも察知したでしょうね」

 静かな聖の声に、私も劉鳴殿も首肯する。

「あちらの一番の目的は何だと思います? 大海さん、隼太さん、私、聖さん。偽の中臣誠が言ったことにどれ程の信憑性があるかは解りませんが、この、狙われている顔触れは本当だと言う気がします」

 私は緩々、風を送っていた団扇の縁を唇に当てた。そろそろ、紫の扇風機の出番だろうか。

「先日、京都で大きな地震がありました。贄が必要であるのならば、当面の危機は聖君にあるでしょう。白猪、白馬、白鶏。そして聖君。集めるだけのものは用意しておきたいでしょうねえ」


 その時、庭に奈苗の幻が降り立った。今日は橙の鮮やかな銘仙を着ている。だが、その表情は険しかった。

「やってくれるじゃない、鹿島の」

「もうそちらにまで情報が行きましたか」

「当然でしょう。術師の世界よ。この、私の目を誤魔化すだなんて……」

 自尊心の高い彼女は怒りに打ち震えている。

「瑠璃雀だけじゃないわ」

「え?」

「偽物から聴いたでしょう。瑠璃雀に気をつけろと。(あけ)(ぎつね)(かな)(くま)も、この家を、いえ、もっと直截に言うなら聖さんを狙っている。いずれも強力な式よ。ことさんたちなら大丈夫と思うけど……。近日中に、私と兄さんもそちらに行くかもしれない」

 言うだけ言って、奈苗の幻は消えた。炒め物の良い匂いがしてくる。玉葱かな。この近所で作られている、種々のおかずの匂いと混じる。月桃香の匂いとも。物騒な話とは不似合いな日常が並行して紡がれている。九倉が加勢に来てくれるなら心強いが。何だろう。言い知れぬ不安感がある。まるで神の手の上で踊らされているような。私の手が彷徨った。迷子の手を、聖は過たず握ってくれた。温もりは互いに浸透する。



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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、そういう単純な絡繰りですか。てっきり幽霊か何かかと……。
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