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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第一章
739/817

音もなく落花する

 誠とライン交換していなかったことが悔やまれる。俊介が、中臣家の電話番号を調べて来てくれなかったら、詰んでいたかもしれない。黒電話のダイヤルを回す。コール音の後に、物柔らかな女性が出た。家政婦のようだ。当主である中臣(なかとみ)(そう)(すけ)さんを呼んでもらう。誠の父で、中臣家の現当主だ。誠もそうだが、壮亮と親睦を深めるのも大事だと感じた。黒電話は廊下突き当りに置かれている。壁にやもりがいて、つぶらな瞳をこちらに向けていた。

『お待たせしました。私が中臣壮亮です』

 どっしりした男性の声。背負うものの知れる貫禄が窺える。

「初めまして。音ノ瀬ことと申します」

『音ノ瀬一族の当主殿ですね。初めまして。今日はどういった趣で?』

「三席と長老に関するご存念を窺いたくお電話差し上げました」

『ああ、そうでしたか……。うちは伊勢殿や出雲殿に比べると弱小で、お恥ずかしい限りです』

「神祇官において中臣氏は重要な立場でおられた筈」

『今は昔ですよ』

 卑屈な謙遜ではなく、穏やかな声音には、心底そう感じていることが判る。

「三席選出については、どうお考えですか」

『直截ですね。うちが割り込む余地があるのか、疑わしいと言うのが正直なところです』

「伊勢と出雲は確定でしょう。音ノ瀬は入らなくて良い。中臣殿が三席に収まってください」

『さて。口で言うのは容易いですが』

 やもりが壁を這って廊下のほうにすばしこく移動した。日の射さないこの場所は、空気がひんやりと感じる。

「及ばずながら力添えも致します」

『音ノ瀬殿にそう言われると、無碍に出来ませんね』

「誠さんに瑠璃雀の件ではお世話になりました」

『――――え?』

「昨夜、うちに影を飛ばして忠告に来てくださいました。お蔭で今後の対策を講じることが出来ます」

『誠が?』

「はい。優秀な息子さんですね。術師としても、さぞや優秀なのではないかと。立派な後継もおられることですし、やはり中臣さんが三席に就かれるべきかと」

 黒電話の横に置いていた、一輪挿しの薔薇の花が花びらを落とす。音のない落花に優美を感じる。中臣誠が優れた術師だと言うことは、出会った時から知れていたことだ。加えて、音ノ瀬に好意的。この先、共闘する場面も出て来るかもしれないが、その時は頼もしい戦力となるだろう。

『私をからかっておいでですか?』

 軽く怒気を孕んだ声。 

「え?」

『誠がそんなことをする筈がない』

「いえ、しかし、現に――――」

『三年前。酷い雨の日でした。車がスリップして、歩道に突っ込んだ』

 壮亮が唐突に始めた話について行けない。一体、彼は何を言おうとしているのか。

「巻き込まれた歩行者の内、二名は搬送先の病院で死亡。その一人は誠です」

「え?」

『誠は三年前に亡くなりました』






第一章、完です。次から第二章が始まります。

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― 新着の感想 ―
[一言] はい? いきなりホラー風味……!
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