白い猪と白い鶏
俊介が新鮮な胡瓜とトマトを持ってうちに来た。しばらく隼太たちと起居を共にすると告げると、目を丸くする。まあまあ、と縁側に促して、私は洗ったばかりのトマトにかぶりついた。
「甘い!」
行儀が悪かろうと、こんな食べ方が一番、美味しい。俊介がほっとした顔をする。まだ日は高いが、梅酒を勧めると嬉しそうに飲む。さて、状況説明をしなくてはならない。私が語る言葉を、俊介はボリボリと胡瓜を齧りながら聴いていた。解るよ。美味しいものね。
「相手は術師を欲しがっているんですか」
「そうでしょうね」
台所では聖や撫子たちが立ち働いている。その生活音も心地好い。
「ことさんは」
「はい?」
「ことさんは、いつまで重荷を負われるのですか」
「致し方ないことです。今では宿業と思って諦めています。それに私は、不相応な程の宝を既に得ている」
「……俺、ふるさとにことさんが行くと聴くたび、不安でした。もう、戻って来ないんじゃないかって。でも、こんなことなら、ことさんは、聖さんとずっとふるさとにいたほうが良いかもしれないと思うんです」
完熟トマトの汁で手が濡れる。薄赤いそれを私は行儀悪く舐めた。
「逃げられませんよ」
「知ってます。ことさんはそういう人です。――――俺に、もっと力があれば良いのに」
「では依頼を受けていただけますか、探偵さん」
「何でも言ってください」
トマトをもう一口。もごもごと咀嚼する。
「長老たちを炙り出して欲しいのです。恐らく、本拠地は京都にあります。霞を食べて生きてる訳でなし、生身の人間であれば必ずホームグラウンドがある筈です。情報が少なくて申し訳ありませんが」
「解りました。やってみます」
「後で正式な書類手続きを踏まえますので」
撫子がにこにこと、すももと枇杷が盛られた硝子鉢を持って来た。
「こっちも熟れてまっせ~」
俊介が破顔して、手を伸ばす。すももは皮を剥いて手頃な大きさに切ってある。枇杷は丸ごと。新鮮な野菜の後は、甘酸っぱいすももと、上品な甘さの枇杷が嬉しい。聖が冷えた牛乳も持って来てくれた。ご馳走だなあ。
「白い猪……」
「はい?」
「その昔、白い猪や白い鶏を神事に供物として捧げる習わしがありました。長老たちが、古きに固執するのであれば、今でも繋がりがある筈」
「成程。当たってみます」
白は神聖な色とされ、白猪・白馬・白鶏を献上して神の怒りを鎮めたこともあった。私は蒼穹を眺めながらそんなことを思い出し、それから聖を見た。白い髪。
まさか。
私は厳しい顔つきになっていたのだろう。撫子たちがこちらを窺う眼差しだ。副つ家の白髪赤目は代々、本家とは異なる信仰の対象となってきた。例えば今、何等かの震災が起きた時の為、術師の素養もある聖を、或いは真葛を〝供物〟として捧げることを長老たちが考えても、不思議はないのだ。牛乳に入っていた氷が、緩やかに溶ける音がした。白く冷えて行く。




