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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第一章
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嵐を耐え忍ぶ時

 大海と隼太をうちに招いた。もっと不平を並べるかと思ったが、私の事情説明を聴いた後の隼太の行動は早かった。出迎えに、撫子がたくましい腕を広げ、回れ右しようとする二人を引き留めなければならなかった。初夏の午前中。滞在に必要な物はあらかた揃っているので、大海も隼太も軽装だ。平日なので楓は学校に行っている。かささぎは若干、複雑そうな表情だ。客間に、私と聖、大海と隼太で対座する。ルイボスティーとマドレーヌを供する。夜に降った雨の湿気が、まだ空気に混じっている。曇天である。私たちのこれからを暗示するかのようだ。

「手駒に出来る術師が欲しいんだろう」

 ルイボスティーを飲みながら隼太が淡々と言う。

「磨理さんは、一族のことについて何も?」

「知らないようだったし、これと言った能力もなかったな」

 答える隼太の隣で、大海はマドレーヌを味わっているようだ。磨理が姿を現したことは、隼太にしか伝えていない。大海がそれをどう受け取るか、反応が読めなかったからである。

「大海の処方するコトノハは邪道だ。その、邪道を可能にしたのが、或いは大海自身の術師としての素質だったとしたら」

 成程、長老たちも欲しがる訳である。

「お前も他人事じゃないぞ」

 隼太の目はティーカップの水面に向けられたままだ。静穏なその表情は、何を思うかよく解らない。

「音ノ瀬こと。お前の能力は規格外だ。術師としての素養も、その一つなのだろう」

「音ノ瀬当主を篭絡すると?」

「それこそ思い上がった言い様だな。手段を選ばん連中だと、三席の話でとうに解っていたことの筈だ」

 私は考え込む。音ノ瀬一族を敵に回してでも、相手は強硬策を採るだろうか。大海が拉致された場合も、私がその事実を良しとしないのであれば、結果は同じだ。玲一も聖も、音ノ瀬は皆、総力を以て抗うだろう。しかし、ことはなるべく穏便に済ませたい。ここは籠城の一手で、長老たちが事態に飽くまで待つ気構えだ。

「父さんが、磨理との結婚に最後には折れたのも、案外そのへんに理由があったのかもしれないな」

 大海の言葉は妥当で、今は彼が正気であろうことが窺える。マドレーヌを何個食べて良いかも訊かれたので、三個までなら良いですよと答えておいた。こうしたところは児童のようだ。私は、じっと彼を凝視する。正気と狂気の間を漂う大海に、今の事態はきちんと把握出来ているのだろうか。もし、磨理が再び姿を見せるなら、大海もいる時であると良い。隼太もいる時であると良い。彼らの心に否応なく、磨理は棲みついている。彼女は、早く逝き過ぎたのだ。隼太が、端座して、畳に手をついた。

「親子共々、世話になる。音ノ瀬当主」

 頭を下げた隼太を、脇にいたかささぎが丸い目で見ている。演技が上手くて助かる。こう下手にでも出てもらわねば、かささぎ含め、家人の気持ちが落ち着かないだろう。殊勝な真似が出来るのは、恐ろしいことでもある。


「かささぎさん」

 縁側に座るかささぎに、私は声を掛けた。大海たちは割り振った部屋に引っ込んでいる。緩々、振り向いたかささぎの顔に剣呑な色は皆無だ。そのことに私はほっとした。

「堪えてくれて、有り難うございます」

「……仕方ないよ。事情が事情だ。俺は、姉さんを守ることも考えなくちゃならない」

 思ってもいない言葉に目を瞠る。人はこのようにして成長する。柔らかい風が吹いた。

「私を、守ってくれるのですか」

「うん。義兄さんと一緒に。役不足かもしれないけど、頑張るよ」

 何を言えば良いのか解らなくなる。おずおずと手を伸ばして、かささぎの癖っ毛を撫でた。

「お願いしますね。頼りにしています」

 かささぎは、うん、と答えて満面の笑みを見せた。



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