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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
神代ひもろぎ編 第一章
720/817

スピリチュアル

 初夏の宵。縁側に座って泡盛で一杯やるのも格別だ。麒麟が帰り際に言った言葉が私を幾分、憂鬱にさせていた。


〝ところでさ、ことちゃん。伊勢と出雲はどうすんの?〟


 古来よりの祭祀の本場。二大巨頭と言えるそれらの地には、音ノ瀬や菅谷とは異なる流派の呪術の一族がある。つかず離れずの距離をこれまで保って来たが、ここ数年は色々とあり過ぎた。そろそろ、私が出向いて事の次第を報告しなければあちらも黙ってはいないだろう。しかし考えるだけで憂鬱である。場所自体は神聖で清涼な空気に満ちて決して嫌いではないのだが、人間関係が面倒だ。浮世の生き辛さよ。菅谷も数年に一度は顔出しをしているようだ。音ノ瀬は私の当主就任以来、一度も関わらないで来た。何のことはない、苦手意識が先行してである。聖などはそれが解っているので、名代を申し出たくらいだ。まあ、副つ家の主であれば音ノ瀬当主名代は十分に務まる。或いは玲一であっても良いだろう。だが、楓やかささぎの諸々を考えるに、ここはやはり私自ら出向くのが最善である。だから私は肩に漬物石が乗ったように気分が重く憂鬱なのだ。折角、泡盛は美味しいのに。豚足も絶品である。このようにして憂慮と美酒美食が相まって私の盃を何度も空にさせていた。

 玉虫色が横に座る。

「伊勢と出雲ですか」

 麒麟の見送りには聖もいた。そうでなくても、私のかねてよりの懸案事項については誰より熟知している人間だ。私はこつん、と聖の肩に額を当てた。

「面倒臭いのですよ……」

「旅行気分で参られては。伊勢うどん、お好きでしょう」

「いっそ飛んで行くという手もあるのですが」

「あちらの結界がびっくりしますし、何より身体にご負担でしょう」

 返す言葉もない。聖の意見は現実的で、ともすれば逃避しようとする私を引き留める。私は鈍重な溜息を吐いた。溜息に重さがあるとすれば米俵くらいはあったかもしれない。額に手を遣る。

「先方への土産と、まずは時候の挨拶を兼ねた知らせの手紙と……。随伴選びに……」

「出雲は僕が参りましょうか?」

「検討します。何せ随分、無沙汰をしてしまいましたからね。貴方との結婚も手紙での報告でしたし。なのに律儀に両方から祝儀が来て、逆に負担で」

 言えば言う程に逃げたくなるが、そうもいかない。場所柄としては風光明媚には違いないのだ。只、ふるさとのように馴染んだ神域ではないと言うだけで。音ノ瀬当主が動くとなると、あちらはあちらで構えるものがあるだろう。そのへんはお互い様だ。まあ良い。伊勢では好物のうどんでも食べて、せめてもの気晴らしにしよう。



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