それでも朝がやって来る
朝だ。朝が来た。
私は布団の上でゴロゴロと転がる。最近、皆が甘やかしてくれるからか、些か怠惰である。コトノハ薬局こそ再開したものの、家事全般を撫子たちに任せてしまっている。初夏の早朝の空気が室内に滞留し、ひんやり私を撫でて行く。楓たちは起きただろうか。
起きているかもしれない。起きていないかもしれない。ふよふよと薄い埃が私の顔の上を舞うので、私はふう、と息を吹きかけた。時間を持て余すと、碌な考えに至らないと解っていると言うのに、起きて何かをしようと言う意欲もなく、無駄に布団と仲良くしている。揺り返しかな。体調と気持ちが落ち着いたから、逆に悲哀のほうから寄って来る。
「…………」
のっそりと起き上がって、浴衣を脱ぎ捨てる。こんな時は一張羅で決めるのが良い。加賀友禅など纏って、気分を高揚させようと目論見る。後、少年漫画を読んだり。戦闘シーンなどを見ると、こちらもしゃっきりする。ような気がする。台所に行くと聖と楓と撫子と摩耶がもう立ち働いていた。客間に景が所在なさげに座っている。恐らく摩耶に台所から追い払われたのだろうと思われる。私を見るとふい、と視線を逸らす。
「おはようございます」
皆に挨拶すると、景以外は挨拶を返してくれた。そして私も台所から追い遣られる。景の正面に座る。我ら同士である。しかしそう考えるのは私だけのようで、景は気難しい表情を崩さない。
「今日は良い天気ですね」
「会話のない人間同士だと自然、天候の話になると聴いた」
取り付く島もないな。私は撫子たちの邪魔にならないよう、湯を沸かして薄めの緑茶を淹れ、景と自分の前に置いた。
「どうぞ」
摩耶が見てる。私と言うより景を見張っている感じだ。信用がないのだな。景は湯呑みを手に取り、口をつけた。
「今日の午後は、家を見てみましょうか」
「家?」
「貴方と摩耶さんの新居ですよ。近所でも売りに出ている物件がありますから」
「……摩耶さんがどう思うかまだ解らない」
「お任せしますと言っていました。ですから、摩耶さんとも一緒に行きましょう」
景の頬がうっすら紅潮している。
私はのんびり緑茶を飲みながら続けた。
「その前に結婚式ですかねえ」
「まだプロポーズしていない」
おやおや。私は声を潜める。
「指輪なら良い宝飾店を紹介しますよ」
景は、ああ、とか、うん、とか言って、目が落ち着かない。若いなあ。にやにやしてしまう。その内、朝食が出来たと声が掛かり、未だ寝ている顔を起こして来るよう頼まれ、私と景は腰を上げた。
明日も開局する予定です。




