ウラン硝子
玲一がうちに来て、改めて今後の方針の打ち合わせをした。極力、楓に過負荷が掛からない方向で。
一度は楓の後見として意思表明した玲一だが、その後、私がそれを暫定措置と明言したことで、彼の立場は微妙なものとなってしまい申し訳ない。蕎麦味噌を肴に、冷酒を飲みながら縁側でそう言ったことどもを語る。玲一は些事だと言って穏やかに盃を干した。
「ご無事にお戻りになられて良かったです」
「ご心配をおかけしました」
玲一は黙して首を横に振る。
微かな虫の音と釣忍の音。月桃香の匂いが薄闇に流れている。空には滲んだ朧月。
「秀一郎も、気を揉んでいたようで」
「そうでしたか……」
目に見えて、と言う訳ではないだろう。父である玲一から見ればこそ、そうと知れただけである。秀一郎も聖に似て、腹の底を人に読ませない。玲一が私の盃に酒を注ぐ。薄い硝子の、蛍光黄緑の酒器はウラン硝子である。人体はごく微量のウランを発していて、このウラン硝子も、害がない程度のウランが使われていて好事家に珍重されることが多い。
玲一が月を仰ぎ見た。
「あれを余り構ってやる必要はありませんよ。秀一郎も、もう良い大人です。自分の気持ちの落としどころは、自分で見つけるでしょう。御当主は、ご自身のことだけをお考えください」
私も玲一を倣うように月を見上げた。
「秀一郎さんは強い人ですね。私は……、彼のそんな強さに甘えてしまっている気がします」
「それこそ秀一郎の望んでいるところです」
蕎麦味噌を一口食べて、玲一は酒を呷る。太い首の咽喉仏が大きく動く。それからは秀一郎の幼い頃の話になった。とりとめなく三男坊の話をする玲一は、父親の顔で、微笑ましいものがある。藤一郎や晃一郎の話題も出た。晃一郎は恋人が出来たそうで、めでたい話である。夜鳴く鳥の声が小さく響く。蕎麦味噌がなくなると、撫子がすかさず焼いたはんぺんを出してくれた。ふくよかな味が楽しい。
「貴方には昔から苦労ばかりかけています」
「さて。何のことか解りませんな」
私の心からの謝意に、唯一の叔父である人は知らぬ振りをした。私は唇に仄かな笑みを置いた。二人共、ウラン硝子の盃が空になっていたので、注ぎ足した。




