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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第六章
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白龍

 麗らかな初夏の気候だった。聖はTシャツにジーンズという軽快な姿で買い物に出ていた。芳江と、隠れ山から下りて来た岡田、和久も一緒である。二人はことの見舞いを兼ねた戦力だった。康醍の家に寄宿している。風が樹々の葉を揺らす。岡田は聖の首に下がるネクタイピンを見た。

「敵さんがいつ来るか解らないのが面倒だな」

「争いのイニシアチブは攻め手にある」

 和久がいつもの無表情で言う。

「ことさんは、もうだいぶお元気そうだ」

 落ち着いた口調の和久に、聖は言葉を返す。

「うん。でも、まだ予断は許さない。揺り返しも考えられる。精神的な」

 聖はエコバッグを持つ手に力を籠める。芳江たちは頷いた。

 青い空に微かに白い雲が浮かぶ。陽光は強く、聖たちを照りつける。

 人のいない住宅地を歩いていた時、全員が足を止めた。

 飛翔する影。

 ぼろを纏った老人。アンデッドが立っていた。

「矢倉の御舘は何しとんねん」

 芳江が鉄杖を取り出す。白木ではなく、殺傷能力の高い鉄である。岡田、和久もそれぞれ日本刀を取り出した。しかしアンデッドは彼らには目もくれず、聖に殺到した。

(れつ)

 アンデッドから血がしぶくが、彼は止まらない。芳江がアンデッドの前に回り、杖でその腹部を突いた。流石にアンデッドもうずくまる。金糸がそこに飛来して、芳江の杖に巻き付いた。

 新手の出現。アーサー、一色、そして雅山だ。

「光の航路。変容の舵」

 和久の刀を持たないほうの手から、光の帯が生まれてアーサーに向かう。一色がリベレーターを乱発する。岡田がそれを刃で弾いた。

「無粋だねえ。こんな陽気の日にさ」

「それはこちらの台詞だ」

 雅山に和久が反駁する。立て直したアンデッドは既に聖と戦闘中だ。

「今、来てくれて良かったよ。ここであんたらを叩いておけば、当分は裏天響奥の韻流のほうに傾注出来る」

「まるで、もう勝ったかのような物言いは早いんじゃないかな」

 岡田にアーサーが不敵な笑みを見せる。

 聖は無表情だった。彼はずっと、ことを襲った悲劇が許せないでいた。今また、自分たちをしつこく狙うアーサーたちにも苛立ちを感じる。

 極めて強度の高いコトノハを処方した。白髪が逆立つ。

 副つ家の主の本領が発揮される。今ここに在る彼は白龍だった。

束縛(そくばく)

 アーサーたちが身動き取れなくなる。その間に、俊敏な身のこなしでアンデッドのみぞおちに拳を叩き込み、まず戦闘不能にした。芳江は雅山の刃を弾き飛ばし、岡田と和久は刀の柄をアーサーと一色の腹部にめり込ませた。

 アーサーが寸前に放った金糸は、聖のネクタイピンには届かない。聖は金糸を意にも止めなかった。

「芳江君。矢倉の御舘に連絡して。彼らを引き取ってもらおう」

「あ、はい!」

 我に帰った芳江は、携帯を取り出しながら戦慄していた。

 聖が鬼兎と称される遣い手であることは承知している。しかし、これは桁違いだ。瞬殺ではないか。まるでことの身に起きた悲しみが、彼を戦鬼としているようだ。自分たちがいなくても、聖は圧勝したのではないか。

 矢倉の御舘の人間が来るまで、彼らはその場に足止めされた。やがて矢倉の御舘の人間が恐縮しながらアンデッドたちを引き取りに来た時も、聖は全くの無表情で事務的にアンデッドらを引き渡した。その後、スーパーに向かったが、カレンからの連絡が入り、アンデッドたちを収容する直前に逃げられたと報告を受ける。カレンは、責任は自分にあると言って、ひたすらに謝罪したが、この状況も聖の予測の範疇だった。

 アーサーたちはまた来るだろう。

 何度でも来ると良い。何度でも撃退する。

 紅玉の目は冷えて、透徹としていた。



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