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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第六章
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逃れられない

 私の傷は癒えつつあった。胸奥では痛みが残るが、日常生活に支障がない程度には快復した。全ては聖や楓、かささぎを始めとした、家にいる人たちのお蔭だった。一族の重鎮を集め、今回の件を手短に、やや事務的に告げ、楓の将来における選択肢の幅を広げるよう努めた。私がしっかりしなければならないのだ。腑抜けていれば皺寄せは楓たちに向かう。自らに喝を入れ、奮い立つ。劉鳴殿には、もののふのような顔をしていると茶化された。そうなのかもしれない。守りたい者があるのなら、人は女であれもののふになるのだ。それから、景に赤い切子細工を渡された。あんたの好きにしろ、とつっけんどんに言いながら。私は景の手を握り締めた。驚いた景は振りほどこうとしたが、私は離さなかった。根負けした景に、有り難うございますと告げた。片桐社長にこの旨、連絡すると、猟犬は戻らない、とだけ言葉が返る。諦めるという概念はないらしく、引き続きサファイアのネクタイピンを狙うようだ。そんなところだろうと思っていたから、私は苦笑する他なかった。

 今日は黄砂の影響か霞がかって暑い。夏日になると予報では言っていた。私は縁側に座り、風にはためく洗濯物を見ていた。気づけば隣に楓が座っている。私はその肩を抱き寄せた。

「私の宝」

 真実のコトノハを処方する。出し惜しみしてはならないのだ、こういうものは。今の、将来の滋養となる。私の深い悲しみを、ぎりぎりのところで癒してくれたのは楓の存在だった。コトノハは嘘ではない。楓は、真実、宝だった。汲めども尽きぬ愛しさを、どう表せば良いだろう。

「私もことさんが大好きだよ。ことさんが思ってるより、きっとずっと大好き」

 両想いだ。悪くない。


 悪くない。


 私にはまだ幸せの余地がある。そのことに何より感謝する。歩んできた道のりを振り返れば、決して平坦ではなく、それどころか所々で著しい破損があったが、それでも射す光明を見逃す程、愚かにはなりたくなかった。かささぎが客間に来たので、私は彼も手招きして、楓共々、抱き締めた。愛おしい命たち。私の家族。聖も来ないかなと思っていたら、念が通じたようにやって来たので、私は何だか可笑しくなった。

 ほら、幸せ。

 幸せが私を見逃してくれない。だから私は観念するのだ。流れた腹の子に詫びるのだ。もののふの顔が今ではぐずぐずに崩れて溶けて、笑みに溢れているだろう。人は多面的な生き物だ。



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