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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第六章
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帰宅

 久し振りの我が家は、月桃香の匂いがした。


 私を迎えてくれる人たちは皆、泣きそうな、切なそうな顔をしていて、景だけが例外で、少し決まり悪そうだ。

 楓がゆっくり抱き着いて来る。この、温もり。柔らかさ。

「楓さん」

「ことさん、お帰りなさい」

 楓は泣いていた。優しい子だから、薄情な私のことを想い、涙してくれる。密着した肌と肌の体温が、とても愛おしい。ぽよん、ともーちゃんも飛びついて来る。久し振りだ。もーちゃんの、大きな一つ目にも、涙が溜まっていた。この子も優しいのだと思う。

 楓を抱き締めていると、今日は髪を二つ結びにしているので、首の産毛や彼女の着ているブラウスの襟の内側が見える。少し黄ばんでいるから、漂白しないと、などと思う。

 とにもかくにも、私は布団が既に敷かれた寝室に連れて行かれた。楓とかささぎが横に座る。かささぎにも心配をかけた……。私は腕を伸ばし、彼の癖っ毛を撫でた。唇を噛み締めている。

「姉さん、俺、いるから。莫迦で役に立たない愚弟だけど、ここにいるから」

「愚弟なんかじゃない。私の、大切な弟のことをそんな風に言わないでください」

 堪え切れぬように、かささぎが涙を一粒落とす。

 どうして、とか細い声が聴こえた。私の唇は石になる。何も言わない、言えない。

 かささぎは乱暴に涙を拭うと、心決めたようにもう一言も喋らなかった。楓もだ。無音になった室内に、遠く釣忍の音色だけが聴こえる。

「玲一さんとの件は聴きました。私が快復し次第、改めて一族に、楓さんの次期当主は暫定措置であることを言います。余計な荷を背負わせましたね」

 楓が激しくかぶりを振る。

「ことさん、そんなことより、今は何も考えないでゆっくり休んで」

 私はそんな楓をじっと見つめてから目を閉じた。

「はい。そうさせていただきます。不甲斐ない母で、姉で」

「ことさん」

「申し訳ありません」


 私がこの家に戻ったことで、停滞していた事態がまた動き出す。

 かたたとらコーポレーション、裏天響奥の韻流。

 懸念事項は片付いていない。

 今はそれらと格闘するだけの力を温存することが、何より大切だった。



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