表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第六章
691/817

風が吹いたら揺り籠落ちる

 かなでは飲んで食べて寝てを繰り返した数日後、ようやく動いた。楓はその間、余程、彼女を急かそうかと考えたが、奔放な気性のかなでの手綱を執ることの難しさを、劉鳴から聴いて知らされていた為、まんじりともせず過ごし、我慢した。かなでが聖と恭司と共に家を出た時は、内心で大きな息を吐いたものだ。

 恭司は勝手知ったる家路を辿り、聖とかなでを導く。ここしばらく麗らかな陽気が続いていたが、今日は少し冷える。体温調節に苦慮する時節だ。雲海が広がる中、太陽が貴重な黄金のように一点、輝きを放っている。

 恭司たちを見た隼太の態度はにべもなかった。

「帰れ」

 そのまま、ドアを閉めようとする。取り付く島もない。かなでがハイカットのスニーカーをドアの隙間にねじ込んで、無理矢理にこじ開けた。

「ことを迎えに来たんだよ。いるんだろ。出せ」

「あいつはもう動かない」

「うるせえなあ。お前の理屈なんざ知らねえんだよ。あたしは、あいつのガキに雇われて迎えに来てんだから」

 隼太の眉根が寄る。

「力づくでも、か」

「良いぜ。そっちがその気なら」

 聖と恭司は口を挟まず、成り行きを見守っている。近くで烏がかあ、と鳴いた。隼太だろうか。

「……具合が悪いんだ。今、ここでどんぱちやるのも、移動させるのも得策じゃない」

 隼太にしては神妙な口振りに、聖は俄かに不安を掻き立てられた。思わず身を乗り出す。

「ご病気か」

「よくわからん。ここ数日、寝たきりだ」

「……こと様のご容態によっては無理に動かす気はない。顔を見たい」

 隼太は数秒、沈黙した後、聖たちを招き入れた。


 私は忘我の心地だった。大海や隼太が傍を訪れては去って行った、朧げな記憶がある。大海は私をとても心配して、消化の良さそうなお粥や麺類を作って運んでくれた。大海と、隼太が部屋の入口で何か小競り合いしていると思ったら、二人は引っ込み、代わりに聖が顔を出した。

 夢かと思った。

 私はあんなに酷いことをしたのに、聖がいてくれる筈はないから。だから夢かと。けれど、聖は跪き、私の顔をあの紅玉の瞳で覗き込んだのだ。

「こと様。お具合が悪いと聴きました。何か、入り用な物があれば」

「聖さん」

「はい」

「ごめんなさい」

「こと様が謝られることは、何もありません」

「ごめんなさい、私」

 ひゅ、と私は息を呑んだ。今から口にすることが恐ろしくて、聖に見放されるのではと辛くて、胸がそうした危惧で詰まった。

「何があってもこと様を責めません。こと様のなさることであれば何であれ、僕は受け容れます」

「違います。私は」

 逃げ出したい。

 私はきっと地獄に落ちるから。聖が許しても天か、それに近しいものは私の罪を糾弾するだろうから。


「貴方との子供を流しました」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ