ほろほろと崩れる砂糖菓子のように
風呂から上がった私は、宛がわれた部屋でぼう、としていた。手ぶらで来たので、着替えなどは隼太の服を借りた。ぶかぶかで、袖などは手が隠れる。男とはやたら大きいものだ。雨音が聴こえる。窓辺にまで行く気力はない。私は私を裏切った。楓たちを裏切った。唯一人の心を救う為に。体操座りをして、顔を腕に乗せる。電気を点けていないので、部屋全体が薄暗い。今は、隼太たちの昼食を世話するのも億劫だった。部屋の隅にある、綿埃が目に入る。掃除をしなくては、と無意識に立ち上がろうとする私と、それに反する私がいる。瞬き少なくその一点を見ていると、ノックの音がした。応じると隼太だ。盆に丼ぶりを載せている。
「海苔茶漬けだ」
「ありがとうございます」
もちろんインスタントだが、意外と気のつく男だ。しかし、私は盆を横に置いて、茶漬けに口をつけようとはしなかった。隼太はまだ部屋にいる。
「どうすれば償える」
空耳かと思った。
隼太の口から出るには、殊勝過ぎる言葉だったからだ。だが、コトノハは続いた。
「お前から、家族を奪った。家族から、お前を奪った。だから、お前の言うことは何でも聴いてやる。花でも着物でも宝石でも、欲しい物はお前にやる。何でも言え」
私は笑んだ。泣き顔じみて。隼太の手が伸びる。
次の瞬間、私は紫陽花色に抱きすくめられていた。
「俺はお前を愛することは出来ないが、お前の為に何でもしよう。抱いて欲しければ抱いてやる。寝物語が良ければ、それでも良い」
「な、ぜ」
言葉が咽喉につかえる。枯れた筈の涙が、また込み上げそうになるのを、私は必死で堪えなくてはならなかった。
「すまない」
稲光。近くに雷が落ちた。卑怯だ。隼太。今になってそんな優しい顔を見せるなんて。何もかもがほろほろと崩れる砂糖菓子のようになりそうで、私はそうはさせじと唇を血が滲むくらいに強く噛んだ。私は紫陽花に埋もれた。聖の名前を何度も呼んだ。隼太は、私をひたすら抱き締め続けた。雨はずっと降り続けて、ひょっとしたら私の代わりを務めてくれているのではないかと思った。




