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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第六章
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春告げ鳥

 結局、大海を放置して、私と聖、かささぎと劉鳴殿、恭司は家まで、文字通り〝飛んで〟帰った。ホテルの支払いは、戻った隼太が何とかするだろう。家の庭に降り立つ。ああ、我が家だ。うちの庭だ。ホテルのように豪勢ではなく、小ぢんまりとしているが、愛着のある庭。釣忍が風に躍っている。

 硝子戸を開けて、靴を脱いで私たちは客間に上がった。丁度、炬燵に入っていた撫子と芳江が目を丸くしている。撫子がすわ、と立ち上がると、どどど、とこちらに突進、我々を、そのたくましい腕に抱き締めた。

「お帰りなさいませ……!!」

 感極まる声は、濡れている。

 私は彼女の腕にとん、と触れた。縛めは解かれ、まだぼんやりしたかささぎをともかくも皆で炬燵に押し込む。摩耶と楓も騒ぎを聞きつけて来て、かささぎの姿を見て安堵した表情になる。今日も客間には月桃香が焚かれている。もーちゃんがぼよよん、とじゃれついて来て、いよいよ帰還した感慨が深い。芳江がすぐに湯の準備をしてくれる。次はご飯だ。滋養のあるご飯を作ろう。風呂が沸いたら、芳江がさあさあとかささぎの背を押して行った。かささぎが入浴する間に昼食を作る。豆腐とわかめの味噌汁、出汁巻き卵、大根おろしとなめこ、その三品だけだが、如何にも家に帰った実感が湧いて良いだろう。

 風呂から上がったかささぎと皆でテーブルを囲む。聖の記憶喪失など、色々と積もる話は尽きない。かささぎの表情は和やかだ。……目も、もう充血していない。これからもまだ、気は抜けないかもしれない。かささぎが隼太憎しの一念を、思い出さないとも限らない。けれど、彼は今、我が家にいて、食卓を囲んでいる。その事実が何より肝要だった。

 ぬるま湯に溺れろ。憎しみだけで生きていける程、人は強くない。愛情だけで生きていける程、人は弱くない。恭司の隣に座る楓は、とても嬉しそうだ。良かった。あの子に彼を無事に返してやれた。

 昼食後、聖と久し振りに二人の部屋に入った。旅行の荷物を整理すると、聖が梅昆布茶を持って来てくれた。

「有り難うございます」

「いいえ」

 聖の記憶は、まだ戻らないのだろうか。

 そう思う、私の心の声が聴こえたように、聖が口を開いた。

「朧げですが、色々、思い出して来ました。この分ですと、記憶の快復もそう遠くないのではないかと」

「そうですか……」

 聖が部屋を見回している。僅かに赤面している。珍しい。聖は昔から、思考が余り面に出ない性分だ。

「かささぎ君のこと、良かったです」

「ええ」

 旅の疲れか、諸々、気が抜けたからか、私は睡魔に襲われた。聖の胸に、ぽすん、と頭を預けると、聖が両手を上げ下げした。慌てている。

「こと様。布団を敷くのでお待ちください」

「帰って来れたね……」

「……はい」

「貴方も、かささぎも、もう離さないから」

「…………」

 聖が何と答えたか記憶にない。

 只、私の目尻を優しく拭う指の感触だけが明瞭で、何より私に幸福を教えた。



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