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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第六章
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紫陽花飛翔

 処方した私の唇はわなないていた。

 かささぎが信じられない瞳で呆然としている。

「師匠」

 劉鳴殿に呼び掛けると、心得たようにかささぎの腕を取った。早く。隼太までが駆けつけて来ない内に、彼をこの場から遠ざけなければ。微風が吹いて、私たちの髪をささやかに揺らす。地面には、私と聖が使った梅の枝が二本、ぽつねんと落ちている。

 そうして、来て欲しくない時に来るのが、彼と言う男だった。

「面白いことになっているな」

 紫陽花色を今日も纏う隼太は、至極、平淡な口調で告げながら落ちていた梅の枝を踏んだ。ポキリと音が鳴る。かささぎが一切の表情を消し、赤いネクタイを二本の棍棒に変えて隼太に躍りかかった。

(ぼう)(とう)

 隼太のコトノハの前に攻撃を阻まれ、その場に倒れる。隼太がその腹に容赦なく靴の爪先を叩き込んだ。かささぎが胃液を吐く。

「無様だな」

「――――さらそうじゅのはなのいろ」

 私は、隼太からもコトノハを奪った。隼太が憤怒の表情で私を睨みつける。かささぎを傷つけられた私も譲らない。劉鳴殿がかささぎを連れ去ろうとするところに、一発の銃声が鳴り響いた。

 コルト ガバメント。隼太の紫陽花色から抜け出た銃身は、陽を浴びて機械的な美しさを放っていた。銃弾はかささぎを庇った劉鳴殿の背中に当たる。私は彼の元に駆けつけ、コトノハを処方した。

()

 傷は幸い深くなく、加えて聖がいるお蔭ですぐに癒えた。外套に穴が開いたことを、劉鳴殿が呑気に嘆いていてほっとする。

「この場は私が預かります。コトノハも、私が預かります」

 ぎらりと殺気の籠った隼太の一瞥。

「お前から殺しておくべきだったな、音ノ瀬こと」

「そんなことをしてみろ、必ずお前を殺してやる!」

 劉鳴殿の腕の中から、かささぎが叫ぶ。目が充血して、赤い。


「うたかたはかつ消えかつ結びて久しくとどまりたる例なし」


 私は隼太を飛ばした。雲の波間に紫陽花色が消える。かささぎは、やはり呆然とした顔だ。私はかささぎに、手を伸ばした。私よりも大きな弟を抱きすくめる。

「帰りましょう、かささぎさん」

 うん、と言うまで腕を解く気はなかった。小鳥の囀りが聴こえる。空は安閑として青く、雲の居場所を残している。かささぎは何も答えなかった。私のことを、私以上の力で抱き締め返して、涙を流した。布帛、と、極めて小さな声で呟いた。私は、私の服の襟元が彼の涙で濡れるままにさせた。傷ついた弟を、早く家に連れ帰り、風呂に入れ、美味しい物を食べさせてやらないといけないと、そればかりを考えた。私はようやく、弟を取り戻したのだ。



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