表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第五章
673/817

白い大理石と深海に眠る宝

 明くる早朝。私は眠る聖を起こさないように部屋を出て、隼太と大海の泊まる部屋を訪ねた。大海はまだ寝ていたが、隼太は起きていた。私の用件を知らぬでもあるまいに、平静の面持ちでロビーに誘った。雨音の歌が微かに聴こえる。若干、湿った空気は薄紫となり空気中に漂うようで、どこか日本離れしている。ロビーにはゆったりとした間隔を置いて椅子、テーブルが置かれていた。ここにもカサブランカが悲しみの音色を添える。私と隼太は小テーブルを挟んで対峙した。私は一切の前置きを省いた。

「聖さんに何をしましたか」

「生きているのか」

「はい?」

「そうだろうな。でなければ、お前が安穏と構えていられる訳がない」

「私はこれでも安穏としてはいませんが」

「バーテンに、鬼兎を殺す酒を作るよう処方したコトノハを服用させた」

「……何てことを」

「だが生きている。誤算だ」

「なぜ、そんな企てを」

 隼太の瞳が真っ直ぐに私を射抜いた。

「大海にお前をくれてやろうと思って」

 私は、数秒、言葉を失くした。息を吸って、吐く。小テーブルは白い大理石の表面を晒している。その優美を見て、それから再び隼太に視線を据えた。

「例え聖さんに万一のことがあっても、私は誰も選びませんよ。私が選ぶのは彼だけです。聖さん一人です」

「情に弱いお前が、大海に憐憫を感じないとは思わなかった」

「それは」

「〝磨理〟になったことのあるお前なら解るだろう。大海の想い、母さんの想い。流されないと言う保証がそれでもあるか?」


 カサブランカを切ろうと思った。


「貴方は私を甘く見過ぎです。聖さんがいなければ、私は楓さんとかささぎさんを守り愛し暮らす。それだけのこと。簡単に代えが利くようであれば、大海さんとて苦しまない筈ではありませんか」


 はらりはらりと想像の中、カサブランカの白い花弁が舞い落ちる。


「聖さんの記憶を戻しなさい」

 極めて強い口調で、私は隼太に命じた。隼太は緩やかに、二、三度、瞬きした。

「どうせ長くはもたない。時が経てば自然と戻る。若い頃の思い出を反芻するのも良いだろう」

「どうあっても悪びれないのですね」

「俺を誰だと思っている」

「恐ろしい人だと」

 奇遇だな、と隼太が呟く。薄紫に紛れるくらい小さな声だった。俺もお前を恐ろしい女だと思っていると隼太は告げて、それきり、押し黙った。掛ける言葉はいくつもあった。私はもっと隼太を責め、詰っても良い筈だった。しかし実際には、私は隼太を只、眺めるばかりで何も言わない。父を思っての暴挙が、彼の人間性を示すようで、どこか深海に眠る宝を見出した心地になったのは確かだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ