表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第五章
671/817

グッバイ、ミックスナッツ

 翌日の夜、聖は隼太にバーに呼び出された。ことの傍を離れるのは気が咎めたが、たまには男同士の友好を深めるのも悪くないと、ことに送り出されたのだ。隼太はいつもの紫陽花色のコートを着て、先に始めていた。ピアノが流れる。確かこれは鎮魂歌(レクイエム)だ。美しくも物悲しい。聖は光源を抑えられた空間の丸椅子に座り、ジントニックを注文した。隼太は琥珀色の酒を飲んでいる。レミーマルタンだろうか。

「話とは何だい」

「別に。お前と飲みたかっただけだ」

 目前に置かれたジントニックを一瞥して、聖は小首を傾げる。隼太はそんなタイプではない筈だが。

「恭司君も呼べば良かったのに」

「……なあ、鬼兎」

「何だい」

「お前、どうして生きてる?」

「え?」

 ジントニックを飲み干した聖の赤い目が大きくなる。

「一度は死んだ命だ。音ノ瀬ことの、摂理さえ捻じ曲げる膨大な力ゆえに舞い戻った。だが正しくは死人だろう?」

「……こと様が望まれたことに否やはない」

「傲慢だな」

 聖の前にまたジントニックが置かれる。鎮魂歌は流れ続ける。流麗に悲しく。

 悲しく。

「あれも息が苦しいだろうに」

 くいっ、と、隼太が酒を呷る。聖は密かに、隼太の言動を訝しく感じた。こんな風に、感傷的に喋る男だっただろうか。このバーのバーテンは腕が良い。ジントニックが美味しくて何杯でも飲めそうだ。聖は酒に強い。強くあるように心掛けて生きて来た。ことが酒豪だからだ。彼女が酩酊して前後不覚になっても、自分が動けるようにと意識した。隼太はそれきり沈黙した。バーの上から下がる装飾の凝った照明は、恐らくはルネ・ラリックだ。どんな明かりの下でも絵になる男だと、隼太を眺めて思う。何でも持っているようにも見えるし、何も持たないようにも見える。そう言えば今日はまだ、大海の顔を見ていない。体調が悪いのだろうか。ことにあんな真似をした後だから、正気づいて気まずくなったのだろうか。

「君は息が苦しくないのかい」

「ないね」

「即答するね」

「真実だからな。お前たち程、愚かになる余裕がない」

「耳が痛い」

 聖は白いシャツにグレーのベストを着て、胸元にネクタイピンを下げている。青く光ることの命。隼太がそれをちらりと見た。聖は肴にミックスナッツを注文した。隼太がその手元をよく見ていると、マカダミアナッツから選り分けて食べている。好きなのだろうか。その内、ミックスナッツを摘まむ手が止まった。隼太はそれを横目に飲み続ける。やがて聖の頭ががくりと垂れて意識を手放しても、隼太は飲み続けた。


「さよなら鬼兎」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いきなり何してんだ隼太……!?
[良い点] ルネ・ラリック、すてき!…と思ってたら、えぇぇ!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ