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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第五章
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素敵な夢をありがとう

 鏡から、恭司は難なく帰還した。それどころか今や、一色の生殺与奪の権を握っていると言っても過言ではない。刃はぶれず、一色の喉元にある。一色は鏡を手放した。硝子の破損する鳴き声が闇に響く。恭司から素早く間を取った、その反射は一色が優れた戦闘員であることを物語る。凡百の遣い手であれば恭司に膝を屈していたところだ。鏡の代わり、彼の手に握られていたのはリベレーター。アーサーお手製の銃だった。一色は迷わず発砲した。恭司の行動もまた、迷いがなかった。銃弾を避けながら、間合いを詰める。近接戦闘であればなまじな相手では遅れを取らない。あの隼太にさえ、極限の勝利を得たのだ。吹雪であることも恭司に幸いした。照準が合わせにくい。加えて、恭司の身ごなしの軽さ、俊速。

 銀色が躍った。

 一色はリベレーターをもう一丁、取り出す。無から有へ。その空間転移能力が今の恭司には邪魔だった。飛び回る蜂にも似た厄介な能力がなければ、事は恭司にもっと有利に進んだ筈だ。乱れ撃ちをしのぐにも限度がある。ようやく、刀剣の間合いに一色を捉えたと思えば、一色はリベレーターの片方を恭司の顔面目掛けて投擲した。頭をのけ反らせてこれをかわすと、次は膝が襲来する。一色が単なる魔法使いではなく、格闘術にも通じていることは先よりの動きからも明白だった。恭司は慎重に刀の一閃を繰り出した。

「相伝の二。籠の鳥」

 この吹雪だ。只でさえ悪い視界を、白い羽が舞い踊れば、それだけで脅威だ。加えて、羽はしつこいように一色に貼り付いた。手足が重くなる。振り切れば良いと言う話ではない。相手は恭司だ。ほんの少しのハンデが、致命的な損傷に繋がる。リベレーターを発砲するも恭司には当たらない。

「殺す気で来ないと君が死ぬ」

 一色は、自分でもどうして恭司にそんな言葉を投げたのか解らなかった。恭司が殺さずして自分を戦闘不能にしようとしていることだけが察知され、そのことに対する苛立ちがあったのかもしれない。

「もう、殺さない。じゃないとあいつの隣は無理だ」

「あいつ? 水木、いや、音ノ瀬楓か」

 恭司は答えず、刀を振るった。白と黒の世界に赤が参入する。

 一色は倒れ、ひんやりと冷たく固い地に伏した。

「あんたが俺に思い出させた。昔の轍を踏むなと。だから、その点に関しては礼を言うよ」

 恭司は息を切らしながら言うと、もう一色には構わず道を急いだ。納刀して、左腕を押さえている。リベレーターの銃弾は、恭司に届いていた。コトノハを処方して治癒するには、今の恭司は消耗し過ぎている。とにかく、隼太の元に急がねばならない。夜道に点々と血痕が残る。音ノ瀬ことが見たなら、すぐさま自分の手当をしようと飛びつくのだろうと、そんなことをぼんやり考えていた。



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