取り戻せない星
玄関の戸を開けて、私たちを一瞥した隼太は無表情だった。特に驚いたり、慌てたりする様子はない。醒めた眼差しだ。
「お前たちか」
「隼太さん」
「ふうん。よくここが判ったな。そこの探偵の労苦か」
「お宅に上がらせてもらえませんか。話がしたいのです」
隼太は否とも応とも言わない。無言で戸を開け放しにした。私はそれを答えと受け取り、中に入り込んだ。聖たちも続く。大きくはないが、手入れがそれなりに行き届いた家屋に見える。隼太は居間に進んだので、私たちもお邪魔した。四角い座卓に、隼太を正面にして座る。聖は私の右手に、俊介は左手に。
「大海さんは?」
「上で寝てる」
「……犬を、殺しましたか」
「ああ、それか。大海がやったんだろう。あいつのすることは、俺でもよく解らん」
茶を催されるなど望むべくもない。門前払いされなかっただけで御の字だ。隼太はやはり紫陽花色のコートを着ている。プロに頼んだのだろうか、破れた箇所は綺麗に繕われている。
「かささぎさんが貴方を捜しています」
「知っている」
「うちに来てくださいませんか」
「は、それで地下牢に入れと? 御免だな」
「入牢しなくても構いません。うちに来てください」
必死に言い募る私を、隼太はやはり無表情に眺め遣る。最新の大きな薄型テレビが、居間の主人のように鎮座している。この男でもテレビなどの娯楽を見るのだろうか。それともニュースの類である、情報を求めてのことか。
「恭司との約束は守る」
滑らかなコトノハには真実の重みがない。
「嘘ですね。貴方は、かささぎさんが来たら殺す」
「お前が信じるかどうかは勝手だ。好きにしろ。俺はこの場所を動かない」
「…………」
コトノハを処方して無理にでも連行するべきか。相手が相手だけに至難の業だろう。私に良案は浮かばない。
「……お願いします。一緒に来てください。大海さん共々、私たちが貴方たちを守ります」
隼太の目に測るような色が生まれる。
「お前の弟は俺を恨んでいる。芋づる式にお前も恨まれるかもしれんぞ」
「覚悟の上です。それに、きっとあの子は私を恨まない」
「どうでも良い。俺は人の都合で動く積もりはない。そんなに言うのなら、お前がこの家に残ればどうだ」
それまで沈黙して、一切、私たちの会話に口を挟まなかった聖が微動する。それを認めた隼太が軽く嗤う。
「何ならお前も一緒にどうだ? 鬼兎。だが探偵は帰れ」
「どうして!」
俊介が不満の声を上げる。
「俺がお前を嫌いだからだ。良い子の、お利巧さんなだけの、常識野郎がな」
根の真っ直ぐな俊介は、隼太のような人間からすれば、眩し過ぎるのかもしれない。聖が問うような視線を私に向けた。
「では、滞在させてください」
隼太の目が大きくなる。私が話を受けるとは予想していなかったらしい。
「正気か、お姫様」
「正気ですよ。貴方が動かないのなら、私もここから動かない。隼太さんもかささぎさんも、私が守ります」
私が言い終えると、ふ、と隼太が笑んだ。
それは皮肉のない純粋な微笑で、どこか優しくそして蠱惑的だった。今この瞬間、私の心が憐れまれていることを私は確信した。何でも良かった。どうでも良い、些末事だ。私は命を守る。取り零しは許さない。




