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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第五章
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取り戻せない星

 玄関の戸を開けて、私たちを一瞥した隼太は無表情だった。特に驚いたり、慌てたりする様子はない。醒めた眼差しだ。

「お前たちか」

「隼太さん」

「ふうん。よくここが判ったな。そこの探偵の労苦か」

「お宅に上がらせてもらえませんか。話がしたいのです」

 隼太は否とも応とも言わない。無言で戸を開け放しにした。私はそれを答えと受け取り、中に入り込んだ。聖たちも続く。大きくはないが、手入れがそれなりに行き届いた家屋に見える。隼太は居間に進んだので、私たちもお邪魔した。四角い座卓に、隼太を正面にして座る。聖は私の右手に、俊介は左手に。

「大海さんは?」

「上で寝てる」

「……犬を、殺しましたか」

「ああ、それか。大海がやったんだろう。あいつのすることは、俺でもよく解らん」

 茶を催されるなど望むべくもない。門前払いされなかっただけで御の字だ。隼太はやはり紫陽花色のコートを着ている。プロに頼んだのだろうか、破れた箇所は綺麗に繕われている。

「かささぎさんが貴方を捜しています」

「知っている」

「うちに来てくださいませんか」

「は、それで地下牢に入れと? 御免だな」

「入牢しなくても構いません。うちに来てください」

 必死に言い募る私を、隼太はやはり無表情に眺め遣る。最新の大きな薄型テレビが、居間の主人のように鎮座している。この男でもテレビなどの娯楽を見るのだろうか。それともニュースの類である、情報を求めてのことか。

「恭司との約束は守る」

 滑らかなコトノハには真実の重みがない。

「嘘ですね。貴方は、かささぎさんが来たら殺す」

「お前が信じるかどうかは勝手だ。好きにしろ。俺はこの場所を動かない」

「…………」

 コトノハを処方して無理にでも連行するべきか。相手が相手だけに至難の業だろう。私に良案は浮かばない。

「……お願いします。一緒に来てください。大海さん共々、私たちが貴方たちを守ります」

 隼太の目に測るような色が生まれる。

「お前の弟は俺を恨んでいる。芋づる式にお前も恨まれるかもしれんぞ」

「覚悟の上です。それに、きっとあの子は私を恨まない」

「どうでも良い。俺は人の都合で動く積もりはない。そんなに言うのなら、お前がこの家に残ればどうだ」

 それまで沈黙して、一切、私たちの会話に口を挟まなかった聖が微動する。それを認めた隼太が軽く嗤う。

「何ならお前も一緒にどうだ? 鬼兎。だが探偵は帰れ」

「どうして!」

 俊介が不満の声を上げる。

「俺がお前を嫌いだからだ。良い子の、お利巧さんなだけの、常識野郎がな」

 根の真っ直ぐな俊介は、隼太のような人間からすれば、眩し過ぎるのかもしれない。聖が問うような視線を私に向けた。

「では、滞在させてください」

 隼太の目が大きくなる。私が話を受けるとは予想していなかったらしい。

「正気か、お姫様」

「正気ですよ。貴方が動かないのなら、私もここから動かない。隼太さんもかささぎさんも、私が守ります」

 私が言い終えると、ふ、と隼太が笑んだ。

 それは皮肉のない純粋な微笑で、どこか優しくそして蠱惑的だった。今この瞬間、私の心が憐れまれていることを私は確信した。何でも良かった。どうでも良い、些末事だ。私は命を守る。取り零しは許さない。



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