胃袋は幸せ袋
戻った撫子と芳江の報告は捗々しくなかった。二人が寺町を訪れた時にはもう、かささぎたちは移動した後だったらしい。摩耶たちも不首尾に終わったようだ。探し人たちは見つからない。釣忍の音色も、もたらすものはない。私は炬燵に入り、次にどうすべきかと思い悩んでいた。隼太なりかささぎなり、迂闊にコトノハを風に乗せてくれたら良いものを、随分と慎重だ。しかしこれは、まだかささぎが本意を遂げていないことをも意味する。炬燵には摩耶、聖、撫子、芳江、そして学校が休みの楓と、訪問してきた俊介が入っている。ぎゅうぎゅう詰め。
「俺も気を付けてはいるんですけど、今のところめぼしい情報はないです」
俊介が申し訳なさそうに言う。因みに彼は子持ちきくらげ一キログラムを持参している。酒の肴にもご飯のおかずにもなる。良い奴だ。今日は温暖な日和で雲間から陽光が溢れている。
「寺町には何をしに訪れたんでしょうね」
「麒麟君も言っていたように情報を求めにでは。隼太君が寺町に滞在するとも思えませんし」
「その情報屋は突き止められないでしょうか」
「やってみます」
これは俊介が請け負ってくれた。この方面のプロフェッショナルだ。私の熱もひいた。本当であれば自らかささぎたちを捜し歩きたいところなのだが。炊飯器が、米が炊けたことを知らせる。
「お昼にしましょうか」
私が立ち上がると、摩耶と撫子、楓がついて来る。必然的に、男性陣は食器洗いの係になる。玉葱とじゃがいもの味噌汁、歳暮で貰ったウィンナー、出汁巻き卵に法蓮草のバター炒めを作る。食事が出来て聖たちを呼ぶと、いそいそ台所のテーブルに集う。子持ちきくらげのパックを開けて容器に入れる。それもテーブルに並べた。
撫子たちと和やかに喋りながら、私は足りないと感じていた。かささぎの存在、劉鳴の存在が。ここに本来いるべき筈の人たちがいない。味噌汁に映る私の顔は、その心情を映すかのように不満気に見える。それから逃げるように出汁巻き卵を一切れ食べた。上品な出汁の風味と、卵の柔らかな歯応えが優しい。気持ちを整えてまた味噌汁碗を持つ。程好い濃さで、玉葱の甘さとほっこりしたじゃがいもが口中に収まり、咽喉を通って行く。法蓮草はバターの風味豊かで、舌に楽しい。ウィンナーはどこまでも香ばしく、子持ちきくらげは甘辛くご飯が進む。こりゅこりゅしたきくらげと、絡みつく魚卵の美味よ。口で、舌で、咽喉で胃袋で、全力で食を楽しむ。かささぎたちはちゃんとした食事をしているだろうか。まともな物を食べていれば、思考もまともに働く。いずれ仇討ちの虚しさに気づいて戻って来てくれないかという、不毛な期待も抱いてしまう。劉鳴殿に掛かっている。頼みましたよ、師匠。そう、心の中で語り掛けると、ことさんは僕を買い被っていますよ、と想像上の劉鳴殿からすげなく言われた。何にせよ、胃袋に入れる物はとても大切である。




