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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第四章
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兄弟と魂魄

 店を出た時刻は、深夜とまでは行かなかった。未成年である楓への配慮だ。透き通った黒に星々が浮かんでいる。

 ことたちと別れた麒麟と昴は、しばらく無言で歩いた。居酒屋でのことの叫びは、兄弟の耳にまで届いていた。

「情が深いな」

 昴がぽつりと評する。誰を指して言っているかは明らかだ。麒麟は白髪を風に靡かせてそうだねと言った。

「あっちの家の事情が事情だしね」

「男女の違いかな。俺はお前にそこまで執着がない」

「あったら怖いよ。俺たちはまあ、俺たちで色々あったし。事情なんて、みんなそれぞれ、あるもんだろう」

「人を呪わば穴二つ、だ」

「解ってるから必死にもなるんだろ、ことちゃんもさ」

 昴が天体に目を遣る。

「可哀そうだな」

 麒麟は一瞬、聴き間違えたかと思った。この兄の口から出るには、相応しくない言葉だ。

「え、昴。今、可哀そうって言った?」

「だってそうだろ。人の命を、どうしても刈り取ろうとせずにはいられない奴は、自分も周りも不幸にするよ」

「陰陽師らしいお言葉……」

「一応、菅谷の当主だぜ?」

「まあそうだけど」

 はあ、と昴が白い息を吐いた。冷えるな、と独り言ちた後で、続ける。

「そんなに姉が大事なら、命の一つくらい見逃すのが器だろう。出来ないあたりでおさとが知れてる」

 その言い様は、可哀そうという言葉より辛辣で、麒麟にしてみれば昴らしかった。

「車、呼ばないの」

「ん。もう少し歩いたらな」

 昴は菅谷の当主であり、お抱え運転手もいる。式神との二人住まいの麒麟とは経済的にも立場に開きがあった。

「俺はそうそう動けないから、その分、お前が音ノ瀬を気に掛けてやれよ、麒麟」

「それはそうする積もりだけどね。……長いこと陰陽師やってるけど、人情くらい難しいものはないな」

 昴が横目で弟を一瞥する。

「魂魄の内、情は魄に属する。地だな。厄介で当然なんだよ。殺されたから殺すなんてのは、魄の成せる最たる業で、つまりは堂々巡りだ。俺たちが最も敬遠すべき分野だ。お前もぬかるみにはまるなよ、麒麟」

「俺はドライだから。昴のほうが危険なんじゃないの。まだ忘れてないでしょ、桜姉さんのこと」

「……」

 じゃり、と昴の靴が音を立てる。乏しい街灯が二人を上から照らしている。

「たった一人の妹だ。そう簡単に行くかよ」

「ほら、魄だ」

「人間だよ」

「かささぎ君だってそうさ」

「…………」

 昴が携帯を取り出した。慣れた手つきで通話をし終える。

「春になればな」

「うん?」

「雪解けが、春を呼ぶように、かささぎの、音ノ瀬ことの心にも、温い清水が湧くと良いんだが」

「らしくないな、昴」

「多少は成長するんだよ」

 そこで昴を迎えに来た車が二人の横に停車した。麒麟は、今ではたった一人の肉親となった昴を乗せた車を見送る。誰もが春を待ち侘びるが、それは如何にも遠く思えてならない。所詮、人の胸中は本人にしか解し得るものではないのだ。

「おいで、水草」

 麒麟は現れた水干姿の少女の手を取り、家路を辿った。本当なら式神である水草にそうした行為は不要だ。麒麟は感傷的になっている自分を思う。持つ程に苦しんでいる女性をそっと心の隅に置き、麒麟はまばらに散る民家の明かりや街灯に照らされながら、夜を歩いた。家までの道のりが、いつもより少しだけ遠いと感じた。



たくさん評価、ブクマありがとうございます。

以前に比べれば仲良くなった兄弟です。

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