どんぐりとダイヤモンド
小雨に濡れながら、二人の男が対峙する。
「白いコートは良いのか」
「ハンデをくれてやる」
恭司にとっては、正直、助かる話だ。コトノハを無効化するコートがあっては、戦い辛いのは確かなのだ。徒手空拳の隼太相手に、躊躇わず抜刀する。
「縛」
「解」
恭司は右の手一本の構えを見せた。
即ち、右手に刀を、左手はだらりと下げる。隼太が眉を微かに動かした。
「切」
「璧」
恭司が刀を振りかざす。隼太がその間合いから出るところを、させじと追撃する。紫陽花色のコートを刃がかすめた。
「氷華輪舞」
恭司の刀の鞘から氷の小花が弾け飛ぶ。それらはてんでばらばらに隼太を急襲した。
「円防」
隼太のコトノハにより、隼太の前面に半円状の膜が生じて氷の華を防いだ。息つく間もなく、恭司が隼太の横脇腹を狙い回し蹴りを放つ。隼太は左腕でガードして右拳を繰り出す。恭司の整った顔の頬が切れる。その、形の良い唇がコトノハを処方した。
「どんぐりころころどんぐりこ」
場に似つかわしくない童歌。焦げ茶色の礫が隼太の頭上から降ってくる。空地に生えていた椎の大樹から落下したものだ。
「金剛石は虫も喰わない」
次は隼太がコトノハを処方する。恭司の身体に、とてつもなく固い何かで殴られたようなダメージが掛かった。数メートル吹っ飛び、倒れそうになるのを堪えて構える。
「だいぶ、鍛えられたな」
「お陰様で」
金剛石のコトノハは、隼太が恭司に無理矢理に服用させたものだ。恭司はコトノハの作用により、〝自ら〟吹っ飛んだ。処方を服用させる能力には個人差がある。隼太の能力は相当に高かった。ことに鍛えられていなければ、今のでダウンしていただろう。恭司はとん、と地面を蹴り、高く跳躍した。持ち前の運動神経の良さは隼太をも凌駕する。隼太の頭上から刀を繰り出す。狙ったのは肩。刃は浅く隼太の肉を抉った。恭司が着地する地点を読んで、隼太が上段蹴りを放つ。恭司はこれを避け、隼太の後ろに回った。無防備そうでいて隙のない背中を狙う。
「防」
「無駄だ」
恭司は、紫陽花色のコートの布地だけを、真一文字に斬った。薄皮一枚、隼太の身体に触れなかった。
隼太の動きが止まった。恭司は荒く息をしている。
勝敗は決した。
恭司、成長しました。




