シャンパンゴールド
ホテルのロビーで優雅に寛ぐ隼太を見て、恭司は脱力しそうになった。テーブルには琥珀色が入ったグラス。昼からシャンパンを飲んでいるらしい。彼の向かいのソファーに荒っぽく腰掛ける。隼太が恭司をちらりと見て、グラスに手を伸ばした。その手を掴む。
「やっと見つけた」
「時間を喰ったな?」
「捜し回ったから」
隼太は、恭司に掴まれているのが不快だとばかりに、手を外させ、おもむろにシャンパンを飲んだ。和製天使の顔に険が宿る。
「何の用だ」
「かささぎさんを殺すな。彼が来ても相手にせず、逃げろ」
くっっくっ、と隼太が咽喉の奥で笑った。
「それに従わねばならない道理が俺にはない」
「そうだろうな。俺の知るお前なら、そう言うんだろう」
恭司は、グラスの中、上へ上へと昇るシャンパンの小さな泡を見つめた。
「だから、俺と仕合えよ。隼太」
「何?」
「俺が勝ったならかささぎさんを殺さないように努めろ」
「その賭けはフェアじゃないな。俺が勝っても得るものがない」
「隠れ山への、コトノハ遣いの流入を俺が引き受ける」
「…………」
「お前は音ノ瀬を敵に回した。これまでのように花屋敷や隠れ山には足を運べないだろう。でも、アジールとして使いたい気持ちは変わらない。だから、俺がお前の代行を務めてやる」
「少しは考えるようになったな。小僧が」
隼太がシャンパンを飲み干し、ロビーの天井に下がる繊細なシャンデリアを見上げる。思案は数秒。
「良いだろう。近くに手頃な空き地がある」
そこで仕合う、という意味だ。恭司は頷いた。大海は来るだろうか。そう考えた恭司に、読んだかのように隼太が告げる。
「大海には知らせない。大仰に騒がれても煩いしな」
隼太が立つと紫陽花色が揺らめいた。恭司は先を行く彼の背中を見つめる。外は冷えていた。小雨がぱらついている。夜には雪になるかもしれないと天気予報では言っていた。アスファルトが小雨を弾く。歩道をしばらく歩くと目抜き通りに出て、更に行くと人気のない、寂しい通りに出た。私有地と書かれた立て札のある空地が、ぽっかり空いている。恭司は隠刀に手を添える。小雨は相変わらずだが、隼太も恭司も、傘の存在を忘れたかのように振舞う。空地には雑草がちらほら生えていた。恭司が隠刀を顕現させる。隼太が真っ直ぐ、恭司の顔を見据えた。
恭司の挑戦。彼の踏ん張りどころです。




