青い命
そこは喧騒の中の和風喫茶。
私の目の前には片桐が座っている。二人きりで会いたいと連絡したのは私だ。片桐はどこか探るような目つきで私を見ながら、抹茶を飲んでいる。
「大胆な真似をする。私がアーサー君たちを伴っていればどうしたのか」
「了承した貴方のコトノハに嘘はありませんでした」
「それで? 話と言うのは?」
私は、松の形の和三盆を一つ、口に入れた。甘く溶ける。店内の照明には和紙が使われ、電気は暖色。そこここに野花が飾られる、品の良い内装だ。
「これです」
私は、卓上に赤い切子細工を置いた。用途はない、モダンアートだ。片桐が怪訝な表情になる。
「これを、貴方の命の代わりとして頂きたい。死守してください。代わりに、私たちがこの細工を破損した時には、貴方の命を頂戴したことにして、この争いを終わらせる。約束してくださいませんか」
片桐は黙って切子細工を摘まみ上げた。
「……これが私の命の代用品か。しかし私は、君に容赦する積もりはない。割の悪い話ではないかな。もし本気で申し出ているのであれば、甘いとしか言い様がない」
「命は」
ふ、と卓上の小瓶に活けられた南天の赤い実を見る。
「一度、喪われれば取返しがつきません。また、私は大事な人たちの手を血で汚させたくない」
片桐が再び、抹茶碗に口をつけた。咽喉がこくこくと動く。
彼は思案顔でしばらく黙り込んだ。
「君の配下の人間は、苦労するだろうな」
「そうですね。否定出来ません」
「…………では、私はこれを預けておこう」
片桐はネクタイからネクタイピンを外した。青い一粒のサファイアが光る。
「これが、君の命だ」
「お付き合いいただけるのですか」
「私は、堅田社長のように出来た人間じゃない。それは、自分でよく解っている。だから、重大事の折には、堅田社長であればどうしたかと、考えることが多い。君の無謀で甘い申し出に、堅田社長であればこのように応じるだろう」
私は、小さな装飾品を、そっと手に取った。
「ありがとうございます」
「息子と妻がいてね。私も、人並みに命は惜しい。それは君も同じだろう」
「仰る通りです」
「では、私はこれで失礼させてもらう。そのネクタイピンをくれぐれも大事にしたまえ」
片桐は伝票を取ると、席を立った。私は青い煌めきを天井からの明かりに透かし眺めた。聖や劉鳴殿あたりから、後で叱られるだろう。だが、片桐が手渡した青い命は、私にとって彼らの叱責をそよ風のごとく感じさせる貴重な収穫だった。




