ホーリーナイト
台所に立ち、私はホワイトソースを作っていた。牛乳や小麦粉などの材料を入れると、後はひたすら焦がさないように掻き混ぜ続ける。これがあればグラタンやシチューが出来る。二条と撫子は林檎と白菜のサラダを、楓はカリフラワーを蒸してくれている。男性陣には昼間から大掃除のあれこれをしてもらっている。ホワイトクリスマスになった。粉雪が柔い羽毛のような牡丹雪に変わり、ふわふわと降り積もる。
今日は昨日から泊まっている恭司もいて、雪が積もったら雪だるまを作ろうと、楓に約束させられていた。渋々と言う感じで指切りさせられていた恭司は、見ていて可笑しかった。
ホワイトソースを掻き混ぜる間はひたすら暇なので、私は小さく「きよしこの夜」を口ずさんでいた。途中から楓も歌に加わり、撫子、二条も入って来たので、最後にはそれなりの合唱となり、窓硝子を拭いたり荷物を移動させたりしていた男たちが、物見高そうに台所を窺う。楽しそうな輪に混じりたい気持ちがあるのだろうが、男たるもの、という意識が邪魔をしてそれをさせないらしい。
例外もいて、劉鳴殿と芳江は私たちの歌の後、真っ赤なおっはっなっのー、と賑やかに歌っていた。陽キャの陽キャたる所以がこのあたりに出る。
マカロニや鶏肉、海老、茸類をホワイトソースと絡めて容器に移し、オーブンで焼く。一息、つける。気を利かせた撫子が、エルダーフラワーのコーディアルを水で割った物を渡してくれた。甘酸っぱい味が渇いた咽喉に嬉しい。
「二条さんや水谷さんは、ご実家には……」
言い淀んだのは、彼らの現状を慮ってのことだ。サラダを作り終えて、こちらも一息ついている二条は微笑した。
「勘当されたから。帰るところはないわ。水谷君はそうでもないのに、帰る積もりはないらしいわね」
オーブンの稼働音、グラタンの焼ける匂いが台所に満ちる。撫子と楓も、何となく二条を見守っている。
「年が明けたら、私はかたたとらコーポレーションに年始の挨拶に伺おうと思っています。貴方たちの帰趨も、話すことになるかもしれませんが」
二条が慎重な目線を私に注ぐ。
「片桐社長に会うの? 大胆ね」
「膠着状態が続くと埒が明きませんからね。代表者同士で話す席を持てるなら、手間が省けます」
「……私も水谷君も、もう社には戻らない。ことさんの側に就くわ。これは彼とも話し合った結果なの」
「差し出がましいですが、お二人でご結婚なさるご意思は」
「それは……まだ解らない」
水谷がここに聞き耳を立てていなくて良かったのか悪かったのか。見ているところ、彼のほうがより二条に惚れている感がある。
「近所に土地や家もあります。何でしたらそちらを整えて、お二人で新生活を始めることも出来るのですよ」
「そこまでお世話にはなれないわ」
「乗りかかった船です。幸せになってくださいよ」
ここでオーブンを覗くと、こんがり良い狐色に焼けている。もう少しで完成するだろう。二条は黙り込んでしまった。彼女には彼女なりの葛藤があるのだろう。しかし、その沈黙を破ったのも二条自身だった。
「有り難う。ことさん。後、私の名前、摩耶って呼んで」
「はい、摩耶さん。素敵なお名前です」
良い頃合いでグラタンが焼き上がる。いつの間にか台所近くで工具箱を漁っていた水谷が、なぜか敵意の籠った眼差しで私を睨んで来たので、私は当惑した。そこにさりげなく聖が通りかかり、水谷の視界を塞ぐ。男は男で、思うところがあるらしい。
さて。何はともあれワインを開けよう。




