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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第四章
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花言葉はほろほろと

 恭司が久し振りにうちに来た。小さな紙袋を持っている。今日は特に冷え込んで、早朝から粉雪が舞っていたので、彼の髪にも小さな雪の結晶がいくつか付着していた。楓が、恭司来訪の知らせを聴いて客間に飛んで来た。髪の毛の乱れを気にしながら直しているあたりが、乙女心だ。恭司の頭を見て、タオルを持って来てやるなど甲斐甲斐しい。

「楓さんのお部屋にお通ししては?」

 私は母としての寛大さを見せてやる。恭司の、奔走振りを労いたい気持ちもあった。楓は頷く。

「お部屋、先に行ってて。私、ココア作ってくるから」

 恭司は大きなクリスマスツリーを眩しそうに眺めていたが、楓の言葉に頷いた。


 楓の部屋は、広さはさほどでもないが、綺麗に整頓されこざっぱりとして、少女らしい調度も揃っている。恭司は小テーブルの前に胡坐を掻いて、部屋の温もりを感じていた。暖房が入っているからだけではない。楓が寝起きしている部屋だからこその生活感の温度があった。

 楓が、ホットココアを二人分、運んで来る。テーブルにマグカップを二つ置いて、恭司の正面に座った。照れたように笑う楓の顔を見ると、恭司の心も和んだ。

「恭司君、逢えて嬉しい。最近は、忙しかった?」

「ちょっと色々あってな。で、お前にこれ」

「ん?」

「渡しておこうと思って」

 小さな紙袋は一見してこじゃれていると判る物で、楓はそれを慎重に受け取った。中にはこれまた小さな箱が入っている。

「開けても良いの」

「ああ」

 箱の中には緩衝材と、青紫のヒヤシンスのブローチが入っていた。

「綺麗。可愛い。七宝焼き?」

「うん」

「……クリスマスプレゼント?」

 窺うように恭司を見上げる。

「うん」

「あ、有り難う。どうしよう、私、まだ何も用意してなくて」

「良い。たまたま立ち寄った店で、楓に似合いそうだったから買った」

「着けて、良い?」

 恭司が破顔する。和製天使の顔が一気に華やいだ。

「その為に買ったんだ」

 楓は、頬を染めて、ブローチを丁寧な手つきで扱うと、着ていた白いカーディガンの胸元に着けた。

「……どうでしょうか」

「似合ってるよ」

 優しい声で請け負われて、楓は早まる鼓動を落ち着かせる為にココアを飲んだ。頭の中は、恭司へのお返しを何にするかということで一杯である。それから、ヒヤシンスの花言葉を思い出した。色別に花言葉があって、最もポピュラーな紫のヒヤシンスの花言葉は「悲哀」、そして「初恋のひたむきさ」である。初恋は、実らないとよく聴く。楓はマグカップを静かに置いた。

「どうした。気に入らなかったか?」

「ううん! すごく、嬉しい……。でも」

「でも?」

 促す恭司の声は優しく、いつもより、年齢差を感じさせた。この人はずっと大人なのだと思う。

「恭司君。どこかに行っちゃうの」

 小首を傾げる恭司に視線を注ぐ。Ⅴネックのセーターからは、首から鎖骨にかけてのラインが綺麗に出ていて、大人の男の色気を感じさせた。恭司は微笑して、楓の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「行かないよ。只、俺なりにけじめをつけないといけないことはある」

「危ないこと?」

「――――判らない」

 嘘、と、楓は胸中で呟いた。たまたま見つけたなんて、嘘だ。きっと、恭司は楓へのプレゼントを捜して回ってくれたのだ。他にもすることがあるだろうに。それは恭司にとって、とても大切な用事なのだろうに。

「楓」

「……何?」

「プレゼントは良いから、お願いがある」

「なあに」

「キスして良いか」


 その言葉に楓の理解が追いつくまで数秒、かかった。恭司は至って自然体で、楓の返事を待っている。


「良いよ」

「目、閉じて」

「はい」


 そっと触れて、離れた。花びらや鳥の羽のように軽い感触。


「ずっと一緒にいてくれるよね」

「……」


 大人の男なら上手い嘘を吐いて欲しかった。恭司の性分からしてそれは望めないことも解ってはいたが。楓は胸元のヒヤシンスをぎゅ、と握り締めた。

 手放さないから。

 初恋のひたむきを、貫いてみせる。



挿絵(By みてみん)






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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっと…ドキドキしてしまいました(≧∇≦*)
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