灯火
自分の呻き声で目が覚めるということもあるものだ。私は呑気にそんなことを思う。体重を預けた背中が痛い。ここはどこだ。あの、草地ではないようだ。室内。暖房の稼働音が微かにだが聴こえる。左腕に管がある。ああ、輸血されているのか。
「こと様」
視線を緩慢に巡らせると、聖の顔があった。常と変わらぬ平生の顔。彼は滅多なことでは揺るがないと安心する。
「白夕さんとさだめさんは。師匠は」
すぐに思い出し、問い詰める口調になる。
「……生きているでしょう。劉鳴殿は彼らにとどめを刺しませんでした」
微妙な言い方だ。しかし、言い淀みながらも聖が請け負ったことに、私はまず安堵した。
「ここは病院です。こと様の傷はコトノハで塞ぎました。ロングカーディガンを着ておられた厚みの分、斬撃の威力が減少されたようです。処方が早かったのが功を奏したのか黒く腐ることもなく。しかし輸血が必要でした」
「楓さんたちは」
「撫子さんと二条さんは廊下で待機を。女手が必要な場合に備えて。楓さんたちは家です。劉鳴殿がいるので滅多なことは起こりません」
「楓さんと、かささぎさんに知らせないでください」
聖がここで困ったような表情になる。
「……風が既に知らせています。僕と劉鳴殿がきちんと説明しました。当初は動揺もありましたが、今は二人共、落ち着いています」
本当だろうか。私はコトノハの真偽を探る。――――判らない。聖は今、副つ家の力を行使して、自分のコトノハの信憑性を極言まで高めていた。加えて、私の心身は弱っているので、そこを突破する余力もない。今は聖を信じるしかない。
淡いミントグリーンのカーテンくらいしか彩りのない、殺風景な病室で、聖の清らな白と赤は目に鮮やかだった。
「私を愚かと嗤いますか」
「いいえ。こと様がこと様でおられるからこそ、人はついて行くのです。厳しい世の、灯火足り得るのです」
「……外が見たい」
聖が、私の背中を、まるで壊れ物を扱うように触れて半身を起こす手伝いをしてくれた。病室は一階だった。四角く切り取られた空は青い。淡く全体に広がる雲こそあれ、蒼穹の邪魔をするものではない。丸裸になったハナミズキが寂しそうだ。
こつん、と、聖が私の左肩に額をつける。
「聖さん」
「単独行動をしばらくはお控えください。僕は副つ家の主です。貴方を守らなければならない。けれど、守ろうとしても、貴方は何度でも僕の手をすり抜けて羽ばたいてしまわれる」
「聖さん」
「僕は嫌だ。もう、こんな思いをするのは」
私は、聖の白髪をポン、ポンと叩き、撫でた。
「すみません。とんでもない女と結婚してしまいましたね」
「悔やんでいませんよ。それでもこと様は僕の妻だ。僕の、至上だ。何より大切な」
唇を求められたので、素直に応じた。熱っぽく、聖は追ってきた。
「どうしました、聖さん」
「どうもしていません。僕はこれでも、随分と我慢しているんですよ」
そうだったのか。
何せ聖は私より随分と年上で、加えて浮世離れした容貌なので、普段からはそのようには窺い知れない。悪いことをしたな……って痛い!
「申し訳ありません!」
背中に負荷が掛かり、痛みに私が顔をしかめたのを見た聖が慌てた。自己嫌悪にしょんぼりしている。多分。表情では判り辛いが。こういうところはやはり、私のウサギさんで、可愛いと思う。さっき、うっかりドキリとしたことは内緒だ。
白状するとにやにやしながら書きました。




