熱伝導
妙に時間の流れが緩やかだ。さだめの繰り出した刺突がスローモーションのように見える。かわすのに訳はない。私は逆袈裟でさだめに斬りかかる。刀が打ち合い火花が散る。その火花でさえゆったり花綻ぶように見えた。儚く美しい。不利と思ったかさだめが間合いを置く。追撃。劉鳴殿は滅ぼすべしと言った魔性の剣遣い。命の簒奪までは躊躇われた。追撃を迎え撃たれる。擦り流していなす。私は彼を助けたいのだと己の心を浚い出す。危険な思惑だ。相手は殺す気なのだ。私もまたそうでなくてはならない。剣が鈍る。刃が迷う。そこにつけ込まない相手はない。優勢である私のほうが追い込まれている。心が喰われる。よろしくない。
「氷華輪舞」
私の刀の鞘から氷の華が飛散する。きらきらと残像が光る。さだめの負った刀傷から愛らしい氷の小花が咲き乱れる。とと、と左に寄って、さだめの右腕に焦点を絞った。
二度と刀の振るえない腕にする。闇から遠ざけるにはそれしかあるまい。草がざわざわ鳴いている。私の闘気に怯えているのだ。ごめんね。
「草籠」
コトノハを処方する。下草が伸びてさだめを囲み退路を断つ。と、私の首に鋭い痛みが走った。窮鼠、猫を噛む。さだめにはまだ反撃の余裕がある。右腕だ。あの、利き腕を斬る。距離を更に詰めて接近した。ああ、空の高いところで鳥が旋回している。研ぎ澄まされた五感はそんなことまで拾ってしまう。鋭敏の全て、剣戟に回さなくは。
私はこれ以上にないくらいに集中していた。さだめを生かしながら戦闘不能にすることに躍起になっていた。あと少しで私の刃はさだめに届く。さだめの感情は読み取れない。只、この段になっても手放さない闘志だけは見上げたものだった。
私の刀の切っ先がさだめの右腕に届いた。接触、と言ったほうが正しい。
その時、背中が急に熱くなった。体温は斬り合いによりとうに上昇している。ゆえにこの熱は体温によるものではない。
外部からの熱伝導。
背中を斬られたのだ。
「単独で突っ走ることは禁じていましたよ。さだめ」
酔芙蓉。振り向けば刀を手にした白夕が立っていた。
さて。ことさんピンチです。




