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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第二章
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行かないで

 私はそれからもたびたび、玲一の家を訪ねた。考えた末に、楓を伴う時もあった。そしてどんな日であれ、歓待されないということはなかった。玲一も三兄弟も美沙も、かささぎも、私たちの訪問を笑顔で迎えてくれた。

「かささぎさん。これが私の家族です」

 そう言って改めて聖と楓をかささぎに紹介した日。

 私の弟は、滲むような笑みを浮かべて、二人を見つめた。少なからず緊張していた楓は、その笑みで力が抜けたようだ。かささぎはまず、聖に手を差し出した。

「事態はまだどうなるか解らない。姉さんを、守ってください。……義兄(にい)さん」

 聖は躊躇わずにかささぎの手を握った。

「うん。君も、僕の家族だ。こと様の弟は、僕の弟だ。君に危難が及ぶ時は、僕は君も守ろう」

 かささぎは、やや目を大きくしてこの言葉を聴いた。小さく有難うと言って、それから楓に視線を移す。この時かささぎはもうだいぶ快復していたが、まだ大事を取ってベッドにいた。自分よりも年下の少女に、その姿を見せることに多少の恥じらいがあったらしいが、彼は楓に優しい笑顔を見せた。

「楓ちゃんだね。姉さんの宝物」

「初めまして。水木楓です」

 ぺこりと頭を下げた楓にかささぎが目を細くする。慈しみの光が双眸に宿っていた。

「姉さんの周りは、優しい空気が流れている。ご家族といい、この家といい。良かった。……姉さんは、きっと厳しい子供時代を送ったと思うから」

 私は困ったような顔をしたのだと思う。かささぎの言葉は確かに正鵠を射ていたから。かささぎがその鏡写しのように困り顔になり、私は慌てて口を開いた。

「かささぎさんも、その優しさの一部です。私は、良い弟に恵まれました」

 かささぎが再び目を瞠り、ぼす、と後ろの枕に倒れ込む。よもや症状が悪化したかと焦る私の耳に、困ったなあ、という、どこか間の抜けたかささぎの声が聴こえた。

「こんな、温もりに慣れると、かたたとらに戻り辛くなるよ」

「戻らなければ良い」

 間髪入れずに言ったのは、私ではなく聖だった。

「こと様の為に、わざわざそちらにいる必要はない。君一人が、そんな責を負うことはないんだよ。言っただろう。相手が隼太であれ誰であれ、僕が家族である君を守る」

「姉さんの選んだ相手が、貴方で良かった」

 身体を起こしたかささぎの顔は明るい。その顔を見て、私は、かささぎの決意は揺らがないのだと悟った。彼は完全快復したらかたたとらコーポレーションに戻る。また、敵対する側に行ってしまう積もりなのだ。私の為に。


「……行かないで」


 そのか細い声が、最初は自分のものと気づかなかった。三人の注目が私に向かう。

「かささぎ。私はもう、家族を亡くしたくはない……」

「姉さん」

「うちに! おうちに来てもらうのは駄目なんですか! かささぎさん、私の叔父さんでしょう?」

 言い募る楓は必死だった。だが、聖もかささぎも硬い表情になる。彼らも解っているのだ。かささぎの存在が公になれば、一族の内部分裂を招きかねないことを。だから、私は泣きたくなった。血縁と暮らすことさえ叶わない状況が悲しかった。かささぎの下半身を覆う布団の布地を握り締める。何も言えない。涙は禁じられている。何と冷たい姉だろうか。只、駄々をこねるしか出来ないとは。すると、かささぎが私の頭を幼子にするように撫でた。

「心は一緒だから」

 宥める声に、私はようよう頷く。ひしと私にしがみついた楓の頭を、今度は私が撫でた。ぽっかり光が当たっているようだった。私と聖とかささぎと楓。一人も欠くことの出来ない家族だと、私は心より思ったのだ。



ワクチン接種の前に予約投稿できました。

副反応がなるべく穏便でありますように。

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