家族会議
牡蠣の酒蒸しに、美沙特製のタレを掛けて食べると、極上の味だ。大粒の牡蠣が弾力を伴い、口中で汁を生じながら咀嚼され滋味を溢れさせる。その日、玲一の家の晩餐の主菜は牡蠣の酒蒸しだった。大の男四人と、女性一人が木目の目立つ大きなテーブルに着いて手と口を動かしている。
「美味いな。坂本さんからか?」
「ええ。今日のお昼、クール便で広島産が届いたの」
「律儀な人だ。礼状を書かないとな」
「貴方、お忙しいでしょう。私が代わりに書いておきますから」
「すまん」
夫婦の遣り取りには互いへの思い遣りと愛情が籠められ、息子たちは多少、その熱に当てられながら牡蠣を堪能する。酒は日本酒とビールがそれぞれ開いている。
「父さん。かささぎ君は、当分の間うちにいてもらいましょう」
今、玲一の家が直面する問題に関して、一番に口火を切ったのは長男の藤一郎だった。幸い、指は完治している。そのことを改めて確認した玲一は、内心で安堵の息を吐きながら頷く。
「それが良いだろう。本家には、元・かたたとらコーポレーションの人間も匿われていると聴く。かささぎ君まで受け容れるのは負担だ」
「いっそ、隠れ山に移しては?」
そう提案したのは次男の晃一郎だ。だが、玲一が首を横に振る。
「駄目だ。隠れ山の存在を、隼太も知っている。そこまで探索の手が及ぶ可能性がある。非戦闘員も少数だがいる以上、巻き込む訳にも行くまい」
くい、と備前焼の盃を干して玲一は淡々と反論を述べる。
「僕たちはかささぎ君を擁することに何の異存もありませんが、母さんが負担ではありませんか? 只でさえ男所帯です」
母親を気遣う末の息子・秀一郎の言葉に、美沙が微笑を浮かべる。
「あら、私は大丈夫よ。貴方たちって、みんな拍子抜けするくらい手がかからない息子たちなんですもの。私はかささぎ君のお世話が出来て楽しいわ」
「しかし守りに徹するのも億劫ですね」
「そうだな。隼太は私たちのこともかささぎ君のことも躊躇なく殺せるだろうが、こちらは隼太を殺せない。この差異は大きい」
「釣りましょうか」
「それも策だ」
晃一郎が、隣の席に座る長兄の、空になったコップにビールを注ぐ。藤一郎は礼を言い、硝子コップに口をつけた。
釣るということは即ち、かささぎ目当てに来るであろう隼太を捕らえ、本家の地下牢に幽閉することを意味する。本家に懸念があれば矢倉の御館でも良い。
「かささぎ君には海外にでも行ってもらったが良いかもしれないな」
大粒の牡蠣を一口で食べた玲一が、それを味わい終えてから告げる。兄弟の反応は微妙だった。今の玲一の発言は、隼太を通り越し、一族がかささぎの存在により分裂することを防ぐ為の発言だ。そこにかささぎへの情が介入する余地はなく、玲一はことの叔父、つまりは音ノ瀬本家に近しい存在としての見解を語ったのだ。
「本家で、ことさんたちと一緒に暮らすことは難しいでしょうか」
「不可能だ、秀一郎。甘い見通しは捨てなさい。かささぎ君と御当主を、一つ屋根の下に置くことは状況が許さない」
「残念ね……」
しみじみと呟いた美沙に、秀一郎も同意見だった。ことはほとほと肉親と縁が薄いらしい。その後、家族会議は牡蠣のお返しに何を送るべきか、という話題に移った。
ブクマありがとうございます。
牡蠣はこの作品当初から出ていますが、九藤の好物でもあります。
どう料理しても美味しいですよね。




