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コトノハ薬局  作者: 九藤 朋
乱刃血縁編 第二章
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矢倉の御館

 聖の緊迫した声が飛ぶ。

「こと様、お下がりください!」

 まさかこんな場所でアンデッドに遭遇するとは思わなかった。意表を突かれた。しかし私はすぐに思考を切り替える。念の為にと持っていた隠刀を顕現させる。ほ、とアンデッドの唇が嬉しそうに綻んだ。

「遊んでくれるか、天響奥の韻流宗主殿」

「思い上がるな。お前の相手は僕だ」

 聖が氷柱(つらら)のように冷たい声を発した。普段は決して出さない、そんな低温の声。足技で杖から姿を現した刃に応戦している。

「さてもさても。お前さんは武器を持たぬであろうに。儂の相手は骨じゃろうて」

(れつ)

「おう!」

 聖の絶対零度のコトノハを処方したアンデッドの右腕が血に染まる。アンデッドは慢心している。副つ家の主である聖は、コトノハの処方こそが本分なのだ。私は聖の言葉を聴かず抜刀していたので、彼の援護は容易いことだった。

「花笑い」

 赤が咲く。赤が、花びらのように舞う。

 だが、アンデッドは傷を受けて尚、私たちに攻撃を仕掛けた。そもそも痛みを感じているかも定かではない。こういう相手はとにかく身体の弱点を突いて戦闘不能にするしかない。私は彼の脚を狙い、刃を閃かせた。

 察したアンデッドが跳躍して後退する。

(しょう)(しょう)裂傷(れっしょう)

 すかさず聖が追い打ちをかける。狭い停留所内は、生々しい血臭に満ちていた。私はアンデッドの愚行を思う。如何に不死とは言え、私と聖を同時に一人で相手取るなど無謀だ。彼はかたたとらコーポレーションと連携していないのだろうか。

 ふう、と風が吹いた。風は告げた。彼は独りだと。とうの昔に人の心を捨てた哀れな人なのだと。ならば、傲慢だが終わらせてやるのが温情だろうかとも思うのだ。私は彼の靭帯(じんたい)に狙いを定めて斬った。肉、筋を断つ感触はいつまでも馴染めない。アンデッドが転がり足掻く。痛覚が全くない訳ではないらしい。

(さつ)(ふう)

 聖の強力なコトノハが処方されると、アンデッドは動かなくなった。私にとどめを刺させまいという気遣いが感じられる。

「どうなさいますか、こと様。この男、時が経てばまた動きましょう」

 納刀した私は唇に指をあて一考した。

矢倉(やぐら)御舘(みたて)に頼みましょうか」

「成程。妙案です。武の系統の家なれば、アンデッドを抑えてもくれましょう。また、矢倉の御館はこと様の願いを断れない」

 当主の声という以前の問題で、音ノ瀬宗吾の失態ゆえだ。今ではすっかり懇意となった宗吾の娘・カレンは、矢倉の御館に積極的に流浪のコトノハ遣いを受け容れてくれている。彼らもまた、アンデッドの抑止力となってくれるであろう。私は携帯でその旨、カレンに伝え快諾を得た。停留所までアンデッドの身柄を引き取りに来てくれるそうだ。

 私たちは目隠しのコトノハを処方し、バスを何本か遣り過ごした後、矢倉の御館から来た人間にアンデッドを引き渡した。そして血で汚れた衣服を着替えに一度家に戻り、それから改めて玲一の自宅を目指したのだった。



3ブクマありがとうございます。

やっとの週末ですね。気温もさすがに秋めいて。

けれどお日様があたるとポカポカします。

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