プリンを捨てる
流血沙汰には慣れているが、それでも呼び鈴が鳴って玄関の戸を開けて、血みどろの男たちがいるとびっくりする。岡田と和久である。出血が酷いのは和久のほうで、とにかく、コトノハの処方をした。すると、蒼白であった和久の顔色が幾分、マシになった。デニムジャケットやらシャツやら脱がせて洗濯に回すと速攻で風呂を沸かし、二人をぽぽいと放り込む。事情を聴いたのは、彼らが父の遺した服に着替えて一息ついた頃だった。
午後の、日が強い時間帯である。それでも、少しずつ短くなっている昼間に、季節の移り変わりを感じる。昼食がまだとのことなので、即席でチャーハンを作った。冷蔵庫に残っていた豚肉をぶち込み、更にキムチを投入する。消耗を取り戻そうとしたのか、単に空腹だったのか、二人共、よく食べた。今日は朝から劉鳴殿もいて、もーちゃんとごろごろしていたのだが、和久と岡田の話を、私や聖たちと共に聴いた。
「殺さなかったのですかあ」
呑気に剣呑なことを言ってくれる。
「総力戦になる前に、相手の戦力を減らしておくに越したことはないんですけどねえ」
「俺が止めた。岡田は、その積もりだった」
「甘いですね。僕が今朝がた、この家の冷蔵庫から失敬したプリンくらいに甘いですよ」
「お前かああ」
「あ、ことさんの分でしたか。ご馳走様です」
「今、ここで食ったプリンを吐き出させてやろうか……!」
「こと様、落ち着いて」
「だって、ミルクプリンだったんですよ! 上には生クリームが絞ってあったんですよ! 私は楽しみにしていたのにこの莫迦師匠があああ」
岡田と和久は沈黙している。かと思えば。
「ことさん。普通のプリンじゃ物足りない派ですか」
岡田が本筋とはずれた質問をする。
「ミルクプリンだから良いのです」
「こと様は昔から生クリームに弱い」
「じゃあ今度、生クリームとカスタードの入ったシュークリームを差し入れますよ」
「岡田さん。貴方は出来る男だと思っていました聴きましたか莫迦師匠」
劉鳴殿は唇を尖らせて不満気である。可愛くないぞ。
「その、布帛いう男と連れの女性の力は大体把握出来ましたね」
そろりとまともな発言をしたのは芳江である。修正能力がある。伊達に日頃、撫子と漫才を繰り広げていない。
「そうですね。ことさん。プリンを捨てなさい」
あっさりと劉鳴殿が言う。これは甘さを捨てろと私に諫言しているのだ。曰はく、殺せと。皆の視線が私に集まる。綺麗事ばかりで遣り過ごせる戦いでないのは、元より承知の筈だった。聖が眉をひそめている。私の為に、劉鳴殿の言葉に反論したいのを抑えているのだろう。
「大将が手を汚す必要あらへんのとちゃいますか」
切り込むように撫子が言った。これは師匠でもある劉鳴殿への反駁である。劉鳴殿が嘆息した。
評価ありがとうございます。
実際にプリンを捨てることを推奨している訳ではありません。
夜に虫が鳴き始め、朝晩はすっかり秋ですね。




