空になった袋
今日も良い日和である。ここのところ晴天が続いていて、秋の紅葉が照り映えている。その紅葉のように真っ赤な髪のかなでと恭司が対峙している。模擬戦だ。場所は山麓にある開けた土地。赤い蜻蛉が、風に乗り飛んでいた。
恭司の成長は布が水を吸うように目覚ましいものがある。今、彼は右手だけで刀を持っている。左は拳を作る。右の手一本。天響奥の韻流の技の一つだ。かなでが嬉しそうに真っ赤な唇を笑ませて、恭司に殺到する。
「相伝の一。花笑い」
かなでの好きで、尚且つ得意な技だ。花びらが舞うように、恭司が鮮血を咲かせるかと思いきや、恭司は右手の刀でその攻撃の凡そ八割を防いだ。全ては防ぎ切れず、多少、出血する。彼は果敢にもかなでの右半身を拳と蹴りで攻撃する。かなでが刀で捌こうとすると、すぐに間合いを取る。うん。駆け引きも格段に上手くなっている。
「相伝の三。白狼王」
恭司が高く跳躍して刀を両手で構えた。切っ先は眼下のかなでに向いている。まるで狼が牙を剝くように、刀は何本にも増殖して見え、相手に退く猶予を与えまいとする。しかしそこはかなでだ。伊達に宗主の座を長年、狙い続けてきた訳ではない。かなでは剣舞のように白狼王を避け、或いは恭司の刀に自らの刀を滑らせて、逆に恭司を追い詰めようとした。察した恭司が素早く後退する。両者、息が既に荒いが、かなでのほうに余裕があるか。
かなでがぐん、と身を低くすると、地面すれすれのところから恭司に迫り、その脚を狙う。脚を負傷すれば戦闘続行は不可能だ。恭司は持ち前の跳躍力でかなでの一閃を避け、返す刀でかなでの胴を薙ごうとした。
ひらひら、と飛んできた何かに、恭司もかなでも気を取られ、反射で斬る。斬られたのはポテトチップスだった。微塵になってしまっている。私は、私と同じくこの模擬戦を見学していた劉鳴殿を見る。彼の仕業だ。私も、そろそろ止める頃合いかと考えていたので丁度良かった。流石に劉鳴殿はタイミングを心得ている。
「それ以上は命に関わりますからね」
ぱりぱりとポテトチップスを食べながらのほほんと、止めた理由を述べる。かなでがあからさまな舌打ちをして、刀を納めると、劉鳴殿の元にずかずか行って、ポテトチップスの袋を奪い取った。恭司も納刀してこれを見ている。
「何するんですかー」
「るせえ。興が乗ってきてたのに邪魔すんじゃねえよ、師匠」
「態度がまるで師匠へのそれじゃない!」
かなでは知ったことかと言わんばかりにポテトチップスを食べ続け、とうとう袋を空にする。劉鳴殿が情けないような顔になり、恭司は彼らを無視して、今の戦いを反芻しているようだった。楓の王子様は、ちゃんと成長している。遠からず、さだめとも伍するようになるかもしれないと考えた私は、少しだけ暗い気持ちになった。
今日は涼しい一日でした。
まだ紅葉は見られませんが、秋の深まりを感じます。
もう今年も残り百日を切っているのですね。




