月光浴
月の美しい晩。薄や白玉団子を飾り、簡易的なお月見を演出してみた。楓や聖、撫子に芳江、恭司にもーちゃんが縁側にぎゅうぎゅう詰めである。それなりに広さのある縁側で良かった。丸い月はどこかセピアがかった金色で、目を凝らして見える影は、兎の餅つきのようだ。皆、無言だが、その無言は気が滅入るものではなく、しみじみと空気を味わうゆえの無言で、優しい沈黙だ。
私は命を拾ったことを月に感謝していた。
月自身がどうこうしたというのではないが、やはり宇宙の神秘に魅せられると人は敬虔にもなるのだ。私の右には楓、左には聖がいる。両手に花と星である。楓がぴったりくっついて、私の肩に頭をもたせかけているのが何とも可愛い。その頭をよしよしと撫でてやると、私の膝にいたもーちゃんが、物言いたげな大きな瞳で見てくるので、こちらもよしよしと撫でてやった。
同時刻、劉鳴も宿近くの橋の上で月を見上げていた。青白い単衣は月光を染め抜いたかのようである。
左腰に手を遣る。
ふらりと歩み出た白夕は、それを見逃さなかった。
「観月の散歩です。試合う積もりはありません」
「そうですか。さだめ君は元気ですか?」
劉鳴は左腰に手を添えたままで尋ねる。白夕は微苦笑して曖昧に頷いた。
「あれは元気がない時のほうが珍しい」
「それは良かった」
白夕は白に近い生成りの単衣で、これもまた月を観るに相応しい意匠ではあった。
「ことさんをそっとしておいてはもらえないでしょうか」
「弟子想いですね」
「ええ。可愛いのです。彼女には、辛いことが多過ぎた」
「あれだけの力をお持ちなのです。宿業でしょう。それは貴方にも言えることですよ」
白い髪も黒い髪も、月光は平等に照らし出す。赤い瞳が静かに黒い瞳を見返す。遠くない将来、命を賭して戦う相手は、余りに静かで剣戟の音は不似合いであるように思えた。
かささぎはマンションの一室から外を見ていた。ぐちゃぐちゃと散らかった部屋に彼はぽつねんと佇み、電気を消してゆるゆると月光浴をしていた。いつもの白いコートは脱ぎ、赤いネクタイも締めず、ラフなシャツとジーンズという姿である。月光に手をかざす。月光は彼の手を透過することなく肌の上に彷徨う。やがてかささぎは床に直に座って、日本刺繍の展示会で手に入れた写真集をぱらりとめくる。月光が綾なす刺繍をも染める。強欲だな、とかささぎは僅かに笑い、月光を浴びたまま、写真集をぱらりぱらりとめくり続けた。
評価、ブクマありがとうございます。今年の中秋の名月も、とても綺麗でした。
また来年も観ることができますように。
じりじり、冷涼が迫ってきていますね。
素敵なお写真は空乃千尋さんより。




